殺し屋のご飯

 「……」

 恨めしそうに、傷口を眺める夜雨。

 「ごめんねっ!夜雨」

 「いいよ。きっとそれしかなかったんだし」

 治療はしたけれど、痛そうだ。

 任務も果たしたし……あっ。

 「秘密文書‼︎やばいやばいやばいやばい……忘れてたっ」

 「これ?」

 夜雨はポケットから、USBメモリを取り出した。

 「えっ、なんで持ってるの……?」

 「そりゃあ、僕が盗んだからだよ。僕は、未來に報復するためにこれを盗んだ。でもさ、中身がしょーもなくて。これが入っていた箱に南京錠かかっていたくせに」

 なんきんじょー。

 まじか。

 というか、

 「中身って何?」

 「君達が通っている殺し屋の学校の生徒の情報」

 「ままま待って⁉︎しょうもなくないでしょ、それ!」

 「このくらいの情報、ハッキングすればすぐに手に入るよ?」

 ちょ、可愛い笑顔で言わないでよ。

 「……恐怖だな、お前」

 話を静かに聞いていた深月が、ぽつりとつぶやいた。


 結局、夜雨はこの家に住むことになった。

 今はこの家で任務成功記念パーティを開いている。
 メンバーは、わたし、深月、日野くん、そして黒幕の夜雨だ。

 山盛りのエビフライが盛られたお皿を持って来た深月。

 「師匠に送りつけられたんだよ、このエビ」

 師匠とは、わたしたちに秘密文書を取り返せと依頼した張本人だ。

 USBメモリを送ったらお礼にと食べきれないほどのエビが届いたのだ。

 「うわぁぁっ。美味しそう……っ」

 「だろ?」

 ミニ喧嘩をしてからは、彼がご飯を作ることが減った。

 彼のトラウマを思い出させるくらいなら、とわたしも頑張って食事を作ったりしている。

 「「「「いただきまーすっ」」」」

 わたしと深月と、夜雨と、日野くんが手を合わせた。

 「めちゃくちゃうめぇ」

 「ですね。僕も任務、行きたかったなぁ」

 「ごめんな。でも、お前には危ないと思ったんだ」

 深月は日野くんの前でも、素顔を見せるようになった。

 「……宣言してもいい?」

 小さく手を挙げる夜雨。

 「いいけど、どうしたの?」

 わたしは、首を傾げる。

 「一つ目。
 嘘ついて、ごめん。僕は、両親を殺されて辛かった。だから、逆恨みで色んな人を殺した。ごめん。
 君たちの組織は、殺し屋だけど、悪いことをした人しか殺さない。知ってた?僕は最近そう知ったから、調べたんだ。僕の両親は、裏でたくさんの罪なき人を殺していたらしい。
 ごめん。二人の大切なものを奪って。あと、勧誘がなんたらこーたらも嘘。僕は、殺し屋業界に属してなんかいない。二人の傷をえぐりたくて、考えた。ごめん。
 あと、パンドラって組織は、勝手に僕があることにした組織。誤情報を、君たちの師匠?に送ったというか……。非合法な手を使っただけだから。」

 辿々しく言ったあと、夜雨は申し訳なさそうに目を伏せた。

 「もう、いいよ。死んだ人が帰ってくることはないから。怒っても仕方がないから」

 「俺も、いい。許せないけど、今だけは、許す。お前と、これからも一緒にいたいから。お前が、また罪のない人を殺さない限りは、許し続ける」

 ありがと、目を潤ませながら夜雨は微笑んだ。

 意味がわからないだろうに、日野くんは口を挟まずに静かに聞いてくれている。

 さっきのしんみりムードがなかったかのように、彼は急に明るい声で言った。

 「二つ目、宣言します。僕、夜雨は深月から未來を奪って見せます!」

 ……?

 理解が追いつく。

 きっとわたしの顔は真っ赤だ。

 さっきの言葉を聞いて一瞬深月は驚いた顔をしたが、ニヤリ、と口元だけ上がった。

 「怖ぇよ」

 わざとらしく深月が、整った形の唇を、少し、不服そうに尖らせた。

 「……へ?」

 深月が腕を、わたしの肩に当たる。

 体の温もりが伝わる。

 片方の手が頭に触れて、心地がいい。

 「これまでは、こいつの気持ちを考えてやってこなかったけど。俺、こいつのこと好きだから。奪わせるわけねぇだろ?」

 「うわぁ。キュンキュンですねぇ。アオハルですね」

 微笑みながら言ってくる日野くんが、少し怖い。

 「ふーん?夜雨くんの方がなんでもできますよ!お買い得お買い得!」

 夜雨がニコッと笑った。

 目線の先には、深月。

 火花が散っているように見えるのですが。

 気まずさを紛らわせるように、勝利のエビフライを頬張る。
 カリッとした食感のあと、弾力のある食感が追ってきた。
 風味も香ばしくて美味しい。
 海老の甘味が最大限に出される料理……だと思う。

 この幸せな空間を味にしたら、こうなるのかもしれない。
 なんとなくだけど、そう思った。

 「お前なんかに、未來はあげねぇよ」

 そう聞こえたような気がしたけれど、きっと聞き間違い。

 でも聞き間違いじゃなかったら、いいな。

 この幸せな時間は、ずっと続く。

 そしてこれから、ドキドキで溺愛されまくりの学園生活が始まる……のかもしれない。