殺し屋のご飯

 夜雨から飛ばされた銃弾を真っ二つに切る。

 「深月っ。夜雨を、救いたいんだけど」

 深月と背中を合わせて、小さな声で言う。

 「でも……」

 躊躇っているのもわかる。

 だって、桜智さんが彼に殺されたのだから。

 「わたしの父さんからの、遺言なの。だから、お願い」

 記憶を辿るかのように少し視線を彷徨わせたあと、彼ははっきりと言った。

 「いいよ。どうすればいい?」

 そう言いながら、深月は銃弾を変えている。

 当たっても怪我はしないけど、激痛を感じるタイプのものだ。

 わたしは、彼に作戦を言った。

 「分かった。絶対に夜雨は殺さない」

 わたしは正面に視線を向ける。

 「あれ?僕のこと殺す気なくなったの?」

 夜雨が、目の前にいた。

 「っ⁉︎」

 後ろに深月がいるので、左右に移動しても彼が危ない。後ろへは下がれない。

 ここから攻撃を受け止めるしか……ない。

 「……殺す気なくなった。だから夜雨も、お願いだから……」

 「お願いだから、何?僕の人生を狂わせたあいつと血が繋がっている人のことなんか信じられないなぁ」

 グッと唇を噛む。

 ……その通り、だ。

 深月がわたしを避けて前に出る。
 深月と夜雨の一対一のような位置関係。

 わたしは彼に、横にどかされてしまった。
 でも、きっと今は彼の番だ。

 「……お前は、俺の恩師を、家族を、大好きな人を、殺した」

 「それが?」

 「許せてねぇけどさ、けど。……わかるんだよ。お前の気持ちが」

 深月の瞳に光が宿る。

 「だけど、壊させるわけには、いかねぇんだ」

 続けて言った。

 「俺の、好きな人を。そして、夜雨も。壊れてほしくねぇんだよっ!」

 深月は、銃を構える。

 大きな綺麗な目を片方瞑った。

 パァァァァン

 「外れたっ⁉︎」

 彼の叫びが聞こえる。

 深月の前には、笑顔の夜雨がいた。

 「「遅いよ」」

 夜雨とわたしの声が重なった。

 驚いた顔で目を見開く夜雨。

 横にいたわたしは、二人に気配を殺しながら近づいたのだ。

 近くで見た夜雨は、左腕を押さえていた。

 わたしの短刀が、彼の腕に突き刺さっている。

 きっとこのくらいなら、彼は死なない。

 だからこれしか、なかった。

 父さんに愛されたわたしを絶望させたいのなら、夜雨は深月を殺すはず。

 それも、彼を倒せたと歓喜した瞬間に。

 だから、さっきは深月に銃を撃てと指示した。

 勝算はほぼなかったけれど。

 「降参。僕は、君たち二人よりも弱い」

 小さく右手を挙げた。

 「一人ずつだったのなら勝ってたよ。でも、」

 初めて、夜雨は心から笑ったような、泣きそうな表情になっていた。

 「二人は、『最強の相棒』なんだね」

 「わたしたちの、家に来ない?」

 知らぬ間にわたしの口から溢れた言葉。

 深月はあたふたしている。

 「ちょっまっ、待って⁉︎お、俺らの家はダメだろっ!」

 「へ?なんで?」

 「なんでじゃねぇよ」

 「理由を教えてよ、このみら……、一夜様に!」

 「未來でいいよ、俺たち二人の時は。俺、ミスって桜智さんからの手紙だと思って、お前の父さんからの手紙読んじまったから。ごめん」

 「そっか。じゃ、二人の時は、わたしは未來のままね!」

 ……あ、家のこと聞かなきゃ。

 視線を横に向けると、顔を真っ赤にした深月と、気まずそうに目を逸らす夜雨が見えた。

 「……みら……といっ……に……かったから」

 ぽつりと小さな声がした。

 「ん?何?」

 「俺が、夜雨に家を渡したくねぇ理由‼︎」

 聞き取れたからわたしが、深月をからかっているとでも思っているのだろうか。

 本当に聞き取れてないだけなのに。

 全て聞き取れたであろう、夜雨がくすくすと笑っている。

 「ははっ、もう一回言ってあげなよ」

 察した夜雨が口を開いた。

 「あぁっ、もういい!俺は、未來と一緒にいたいの!一夜は、未來は俺の未来だからっ」

 手を優しく掴まれた。

 温かい。

 でもそれ以上に恥ずかしい。

 「あー、もう帰りましょ。夜雨も一緒に暮らせばいいよ」

 さっきのは聞こえてなかったんだ。うん、空耳だよね!

 「おいっ!」

 止めに入る深月をガン無視しながら、わたしたち三人は仲良く家に帰った。