殺し屋のご飯

 頬についたまだ生ぬるい血を、これまた血で汚れた手で拭う。

 「……汚れちゃった。また、深月(みつき)に怒られちゃうなぁ……」

 不意に耳元から、「聞こえてるけど」という、いつもの耳障りの良い掠れた声がした。

 「影薄いなぁ。いつも通り深月は」

 気配に気が付けなかった。

 後ろには真っ黒な服の深月が佇んでいた。

 朝陽深月はわたしの恋人。
 その彼が、息の混じった小さな、しかし怒りのこもった口調で言った。

 「違うから、一夜(いちや)。そういうのは、影が薄いじゃなくて目立たないってマイルドにいうもんだけど?」

 ぼそっと、怒らねーしと付け加えている深月。

 走ってきたのか、少し彼の息が荒い。

 整った大人っぽい顔が歪んでいる。

 死んでないか不安だったんだよね。
 わたしたちは、《殺し屋》だから。

 「じゃあ、帰るぞ」

 「はいはい、わかりましたよ。深月さん?」

 ふざけて、わたしは彼の顔を覗き込む。

 「は?やっぱり、お前の好物のハンバーグ用意したけど、あげねーわ」

 ふんっと拗ねて俯いた深月の耳が真っ赤に見えたのは、わたしの気のせいだろうか?

 「えぇっ。えーっ?じゃ、誰かに言いつけてやるっ!」

 「俺の情報網を潜り抜けることができたらな。できるわけねぇけど」

 気のせいじゃなかったら、嬉しい。
 そう思ってしまうわたしに、わたしは少し驚いた。
 
 わたしは中二だけど、深月との二人暮らし。
 親がいないから、全部家事も二人で頑張るしかない。

 で、今日の夕飯は、なんとっ!
 「でっ……で、デミグラスハンバーグッッッ!」

 「一応、な。お前仕事だっただろ?だから、俺も腕を振るったというか……なんというか……。うまいもんを食わせてやりたかったんだよ」

 そんな彼氏の話も、キラキラのエフェクトのかかったように見えるハンバーグの前では聞こえない。

 「あげないって言ってたのに?素直じゃないんだから。もーうっ!いただきまーすっ!」

 綺麗に切り分けると、中からトロッとしたソースと絡み合ったチーズが出てきた。
 それがフォークと絡んで、細く伸びる。
 チーズが重みに耐えきれなくなって落ちた。
 それでも気にせずわたしは、わたしの大好物、深月の手作りハンバーグを大きな一口でいただく。

 「おまっ、ソースが口についてる」

 彼が、指で頬をなぞる。
 指先には、茶色のソース。
 それをペロッ。

 「まままままっ、待って⁉︎食べたよねっ?わたしにはこぼしたもの食べるなって言ってるくせに⁉︎」

 「はぁ?食品ロス削減だよ。よく広告とかで言ってるだろ?」

 「そっかぁ……ってなると思うっ?」

 このデミグラスハンバーグをいつまでも食べれますように。
 わたしは雑談をしながら、願った。