犬猿アイドル、なぜか最強バディ⁉︎

 温泉街のメイン通りには提灯の灯りが並び、フェス会場の方からはにぎやかな音楽が聞こえてくる。

「うわ、人多」

 叶斗が小さく声を漏らした。
 会場の前には、すでにたくさんの人が集まっている。
 その中には、Luminousのタオルを持ったファンの姿もあった。
 胸が、ちくりと痛む。
 あの動画を見た人も、きっといる。
 不仲説。解散説。
 そんな言葉が頭をよぎる。
 ――ほんとは仲悪かったんだ。
 もし、そう思われていたら。

「……行くよ」

 僕が言うと、叶斗が珍しく素直にうなずいた。

「うん」

 ***

「はい、本番五分前でーす!」

 スタッフさんたちが慌ただしく動き回る。
 控室代わりの部屋で、僕は鏡の前に立って衣装を整えた。
 その横で、叶斗が髪をいじりながらぼそっと言う。

「なあ」
「なに」
「さっきは、ごめん」

 思わず、鏡越しに叶斗を見る。
 叶斗は気まずそうに視線をそらした。

「その……引っ張ったやつ。立ち位置直そうとして、つい」
「……別に」
「あと、言い方も悪かった」

 珍しい。
 本当に珍しい。
 明日は雪でも降るんじゃないだろうか。

「僕も、ちょっと言いすぎた」

 そう返すと、叶斗が「お」と小さく笑った。

「湊が素直だ」
「そっちだって」
「俺はいつでも素直で可愛いじゃん」
「どこが」

 少しだけ。
 ほんの少しだけ、空気が軽くなる。
 その時だった。

『まもなくLuminousのお二人、お願いしまーす!』

 スタッフさんの声が響く。
 僕と叶斗は同時に立ち上がった。
 部屋を出る直前。
 叶斗がふっと息を吐く。

「……まあ、やるしかないか」
「今さら逃げられないしね」
「それな」

 会場へ続く通路を歩く。
 ステージの光が見えた瞬間。
 不思議なくらい気持ちが切り替わった。
 隣を見る。
 叶斗も、さっきまでのゆるい空気は消えていた。
 背筋が伸びる。
 表情が変わる。
 その瞬間だけは、ただの天宮叶斗じゃない。
 Luminousの天宮叶斗になる。
 ……ほんと。
 こういうところは悔しいくらいかっこいい。