犬猿アイドル、なぜか最強バディ⁉︎

 食べ歩きミッションを終えたころには、太陽はすっかりてっぺんまで上っていた。

「次は、“映えツーショット撮影ミッション”でーす!」

 スタッフさんが元気よくカンペを掲げる。

『温泉街で仲良し写真を十枚撮ろう♡』

「まだあったんだ、これ」
「むしろこれがメインでは?」

 僕が小声で言うと、叶斗がげんなりした顔をした。

「もう笑顔筋が限界なんだけど」
「アイドルが言わないで」
「湊だってさっき顔引きつってた」
「引きつってない」
「はいはい、ケンカしない!」

 マネージャーさんがぱんっと手を叩く。

「この橋の上、景色きれいだからここで撮ろっか!」

 促されるまま、僕たちは赤い橋の上へ移動した。
 下には川が流れ、湯けむりがふわふわ漂っている。
 ……たしかに景色はいい。

「じゃ、肩組んでくださーい!」
「「えー……」」

 僕と叶斗の声が、見事に重なった。

「息ぴったり!」
「そこ喜ぶところじゃないです」
「俺ら今、嫌がってたよな?」

 スタッフさんはにこにこしたままスマホを構える。

「はい、もっと近づいて〜!」

 仕方なく、僕は一歩だけ叶斗に近づいた。
 すると。

「近っ」

 叶斗がぼそっとつぶやく。

「スタッフさんが寄れって言うから、仕方なく」
「いやでも距離感バグってるって」
「うるさいな」
「はいはい、笑って笑って〜!」

 カシャッ。
 シャッター音が響く。

「次、こっちはどう? はい、顔見合わせて〜!」
「なんで?」
「なんでって企画だから!」

 僕が真顔で聞き返すと、スタッフさんが困ったように笑った。
 その横で、叶斗が急に吹き出す。

「湊、今めちゃくちゃ嫌そうな顔してる」
「叶斗もね」
「俺はまだがんばってるし」
「どの口が」

 そんな言い合いをしているうちに、スタッフさんが「あ、いい感じ!」と何枚も写真を撮っていく。
 ……本当にこれ、需要あるんだろうか。

「はい、じゃあ最後は動画コメントお願いしまーす!」

 スタッフさんがスマホを向ける。

「Luminousの〜?」
「かなみな仲良しバディ旅〜」

 営業スマイルで言いながら、僕は内心げっそりしていた。

「今は温泉街を満喫中でーす!」

 叶斗が元気よく手を振る。

「このあとも、まだまだ旅を楽しみたいと思います!」

 ……主に、仕事として。
 僕も笑顔で続けた、その時だった。
 ぐいっ。
 突然、肩を引っ張られた。

「うわっ!?」

 バランスを崩しかけた僕を、叶斗がとっさに支える。

「ちょ、危なっ!」
「急に引っ張らないでよ!」
「だって湊、立ち位置ずれてたし!」
「だったら先に言って!」
「言う前に撮影終わりそうだったから!」
「だからって引っ張る必要ある!?」
「じゃあ自分で気づけよ!」

 思わず声が大きくなる。
 さっきまで浮かべていた営業スマイルなんて、とっくに消えていた。

「いや、そもそも叶斗が——」
「俺のせい⁉︎」

 ぴりっ。
 空気が張りつめる。
 周りのスタッフさんたちも、思わず動きを止めた。
 その時だった。

「あ……」

 近くから、小さな声が聞こえた。
 振り向く。
 少し離れた場所に、制服姿の女の子が二人立っていた。
 手にはスマホ。
 どうやら僕たちに気づいて近づいてきたらしい。

「かなみな……?」
「え……」

 二人は戸惑ったように顔を見合わせる。

「なんか……」
「めっちゃケンカしてない……?」

 しまった。
 そう思った時には、もう遅かった。
 女の子たちの表情が、みるみる曇っていく。

「やば……」

 ひとりが小さくつぶやく。

「かなみなって、ほんとは不仲だったんだ……」

 胸がどくりと鳴った。
 僕たちは“かなみな”として活動している。
 仲良しバディ。最強コンビ。
 そう信じて応援してくれているファンもたくさんいる。
 なのに。

「あ、いや、今のは……」

 とっさに声をかける。
 けれど、

「す、すみません!」

 二人は慌てて頭を下げ、そのまま走り去ってしまった。
 追いかける間もなかった。
 静かな沈黙が落ちる。
 さっきまで楽しそうだった空気が、嘘みたいに消えていた。

「……やばくない?」

 珍しく、叶斗が真顔でつぶやく。

「やばいね」

 僕は小さく息を吐いた。
 たぶん。
 今のは、かなりまずい。
 ファンの子に見られた。
 しかも、一番見られたくない場面を。

「……とりあえず宿に行こう」
「うん」
「少し頭冷やしたい」

 このままだと、また余計なことを言いそうだった。
 僕たちは顔を見合わせることもなく、宿へ向かう車に乗り込んだ。