「美桜に会えたら、ちゃんと謝って、このピンを返そうと思っていた」
なくしたと思っていた、桜のピン。
錆びていて、髪の毛に飾ることは難しいけど、懐かしい気持ちでそのピンを見つめる。
あのとき傷ついたのは確かだけど、テツもまた、自分の言ってしまった言葉を後悔していたんだ。
返す機会を願いながら、このピンを十年以上も大切に持ち続けてくれていたことに胸が熱くなる。
彼の気持ちを聞いているうちに、気づけば長い間心の中に残っていたわだかまりも薄れていた。
「……ありがとう。ちゃんと謝ってくれたから、もういいよ」
ピンを受け取って笑顔でそう言うと、テツはほっとしたように息を吐く。
その表情を見ていると、自然と肩の力が抜けていた。
私はお預けされていた、少しぬるくなったシャンディーガフを口にする。
「なぁ、そんなに飲んでて大丈夫なのか? 明日も仕事だろ」
テツが心配そうに顔を覗き込みながら言うので、私はグラスを揺らしながら笑った。
「大丈夫だよ。明日も遅番だから」
「それならいいけど」
テツって意外に心配性なんだな。
新たな一面を知り、自然と頬が緩む。
こんなお洒落なバーに来る機会もないだろう。
それに、テツと会うのもこれが最後になるかもしれない。
そんなことを思いながら、グラスに口をつける。
素面のテツには悪い気もしたけど、今夜はいつもよりお酒が進んでいた。



