あなたを見捨てたあの日に。

春の暖かい日差しが心地よいある日。

私は母が持たせてくれたお弁当を片手に、大学のベンチで親友を待っていた。

しばらくすると、遠くから七海が慌てた様子で駆け寄ってくる。

「ごめーん!! 教授に捕まっちゃってた……!」

肩で息をしながら謝る七海に、私は思わず笑った。

七海は私の一番の親友だ。

少し天然なところはあるけれど、明るくて優しくて、一緒にいると自然と元気をもらえる。

「また居眠りして怒られたんじゃないの?」

「してないし! 今日は真面目に授業受けてたもん!」

そう言いながら頬を膨らませる七海に、私はますます笑ってしまった。

昼休みのキャンパスは賑やかだった。

教授の愚痴を言ったり、新しくできたスイーツ店の話をしたり。

私たちはいつものように、たわいもない話をしながらお弁当を食べていた。

そんな時だった。

「おー、紗奈! 七海!」

聞き慣れた声に顔を上げる。

そこには蓮が立っていた。

流れるような淡い茶色の髪。

優しそうな雰囲気を纏った彼は、学年でも人気のある男子学生だった。

「お前ら相変わらず仲良いなあ。今日も二人で飯か?」

そう言って笑いながら手を振る。

「そうだよー」

七海が元気よく返事をすると、蓮は「じゃ、またな」と言い残して去っていった。

蓮の姿が見えなくなると、七海がニヤニヤしながら私を見た。

「蓮ってさ、絶対紗奈のこと気になってるよね」

「いやいや、ないない」

「またまた〜」

「むしろ七海の方じゃないの?」

「私はないよ〜」

七海は楽しそうに笑った。

私も笑い返す。

そんな何気ない時間が、ずっと続くと思っていた。

その時だった。

七海のスマホが震える。

画面を確認した七海の表情が、一瞬だけ曇った。

けれど、すぐにいつもの笑顔へ戻る。

私は少し気になった。

(何かあったのかな……)

そう思ったけれど、深く聞くことはしなかった。

その日の帰り道。

いつものように二人で歩いていると、七海が不意に口を開いた。

「もしさ」

「ん?」

「友達が本当に困ってたら助ける?」

突然の質問だった。

「もちろんでしょ」

私がそう答えると、七海は少しだけ目を伏せた。

「そっか」

それだけ言って、小さく笑う。

今思えば、あの時もっと聞くべきだったのかもしれない。

空は茜色に染まり始めていた。

駅へ向かう七海と、反対方向へ帰る私。

別れ際、七海はいつもの笑顔で手を振った。

「また明日ね!」

私も手を振り返す。

「うん、また明日」

あの日の私は、何も知らなかった。

あの「また明日」が、二度と来ないことも。