「ももと居ると、気が抜ける」
そう言ってから黙り込んでしまった暁。
きっと、というか、絶対に疲れてる。
それなのに、こんな言い争いしてる場合じゃない。
私はハッとして、ベッドで寝てる暁の近くに行って腰を下ろした。
「暁、お疲れ様。合宿、凄い大変だったよね」
「…うん。多分今までで1番しんどかった」
私の方に体を向き直して、そう言った暁は苦笑いを浮かべている。
あまり弱音を吐かない暁が、こんな事言うのは珍しい。
「でも、めちゃくちゃかっこよかったよ!いつもの暁と別人みたいだった」
(カッコよすぎて好きが増した!なんて言えないけど…)
「ファンもたくさん増えてるし、このまま本当にアイドルになっちゃいそうだね」
「…」
そう口にすると、無意識から、少し寂しさが込み上げてきて、暁から目線を逸らした。
「暁が遠くに行っちゃうみたいで、寂しいかも…」
呟くみたいに出てきてしまった言葉。
何て事を言ってしまったんだと、言ってから気付いた。
自から数ヶ月前「暁はアイドルになれる!」なんて言って、暁の背中を押していたのに、それはあまりにも勝手がすぎる。
でも、それが本心なのかもしれない。
画面の向こうでキラキラに輝いて、今まで見たこと無いくらいかっこいい暁に、きゃーきゃー騒いでいた私ももちろん嘘じゃない。
でも、やっぱり私は、いつも隣りにいる幼なじみの暁が好きなんだ。
「…今更気づいたか」
その言葉にドキッとして暁の方を見る。
すると少し呆れたように、でもどこか嬉しそうに、笑っていた。
「でも、もう遅い」
暁の手が伸びてきて、私の髪にそっと触れた。
「…暁?」
「俺、アイドルになるよ」
優しく、甘く、でもどこか切なげに
私を見つめて、髪を撫でながら
そう言った暁。
そして、そのまま電池が切れたみたいに
ゆっくりと瞳が閉じられた。
スー、スー、と静かな部屋に暁の寝息が響く。
「……暁?寝たの?」
声をかけても、全く起きる気配はない。
本当に、限界まで頑張ってきたんだ。
ベッドの脇に座ったまま、私はその無防備な寝顔をじっと見つめた。
少し痩せた頬。
長いまつ毛。
そして、さっき「アイドルになるよ」と呟いた少し薄い唇。
(……暁は、本当にアイドルになるんだね)
いざ、本当にそうなると思うと、頭では分かっているのに、心がどうしても追いつかない。
ただの幼なじみのはずなのに、どうしようもなく好きで、誰にも渡したくなくて。
まるで、引力に逆らえないみたいだった。
気がつけば私は、眠る暁の顔に吸い寄せられるように、ゆっくりと自分の顔を近づけていて。
ちゅっ、と。
本当に触れるだけの、一瞬のキス。
「……っ! 」
(私、いま、何……っ!)
自分の信じられない行動に我に返り、パッと顔を離そうとした、その瞬間だった。
