-それから数日後。
初めての中間テストを目前に控え、私は本当に暁の部屋で数学を教えてもらっていた。
「だから、この公式に当てはめればいいだけだって。さっきも言ったろ」
「うぅ……数字とアルファベットがゲシュタルト崩壊してきた……」
机に向かって並んで座り、シャーペンを握りしめてフリーズする私。
暁は呆れたように息を吐くと、私の手からひょいっとシャーペンを抜き取った。
「貸してみ。ここは、こうして展開するの」
暁がノートにスラスラと数式を書き込んでいく。
その過程を見ようとして、ふと顔を近づけた瞬間――。
(あれ……?)
すぐ横にある暁の顔。
今まで何万回も見てきたはずの顔なのに、真剣にノートを見つめる伏し目がちな横顔が、やけに大人びて見えた。
スッと通った鼻筋。
ノートに文字を書き込む、骨ばって筋の浮き出た大きな手。
腕をまくったシャツから覗く、ガシッとした腕の厚み。
シャンプーの匂いなのか、それとも柔軟剤なのか。
いつもより近くで感じる暁の匂いに、なぜか急に胸の奥がトクン、と大きく跳ねた。
「……で、最後がこうなる。分かったか? ――ってもも?」
「っ、ひゃい!!」
暁が顔を向けた瞬間、距離が近すぎて息を呑んだ。
変な声が出た私を、暁がきょとんとした目で見つめる。
「お前、顔赤いぞ。知恵熱でも出た?」
「でっ、出てない!! 大丈夫! 分かった、その公式ね! 完璧!!」
私は慌ててノートとシャーペンを奪い返し、プリントに目を落とした。
やばい、やばい。何今の。
文字なんて一つも頭に入ってこない。心臓がうるさいくらいバクバク言っている。
暁は「ほんとかよ」と怪しむように笑いながら、いつものようにポン、と私の頭を撫でた。
その無防備な優しさが、今はなぜか少しだけ、くすぐったくて苦しかった。
