クソ真面目なアイドルに、幼なじみの一途が重症です。



「あー、もうダメ。限界。」


いつもの放課後。

コンビニで買ったチョコミントアイスを齧りながら、私、神谷百香(かみや ももか)は隣を歩く幼馴染に泣きついた。

「糖分がたりない!!」
「お前、さっきからそればっか。今糖分摂取してんじゃん」
「そうだけど…!だって! 高校の数学、意味分かんないんだもん! なんで急にアルファベットばっかりになるの!? 数字はどこに消えたの!?」

切羽詰まった私は、まくし立てるように早口で訴えた。
それに呆れたように笑いながら、自分のバニラアイスを口に運ぶのは早瀬暁(はやせ あき)。

家がお隣同士で、生まれた時からずっと一緒にいる一つ年上の幼馴染だ。

身長はいつの間にか私よりずっと高くなっていて、見上げる首が少し痛い。
でも、昔から変わらない面倒見の良さで、文句を言いながらも結局は私のペースに合わせてゆっくり歩いてくれる。

「ほら、さっさと食え。溶けるぞ。帰ったら教えてやるから」
「ほんと!? 暁、神!! 一生ついていく!!」
「はいはい、大げさ」

暁の家の玄関を勝手に開け、「お邪魔しまーす!」と声を響かせる。
勝手知ったる他人の家。階段を駆け上がり、迷わず暁の部屋へ直行して、いつも通り彼のベッドにダイブした。

「おーいー、せめて手ぇ洗ってからにしろよ」
「ごめんー。でも先に体力回復させてー」

ベッドの上に転がって、読みかけの漫画を開く。暁はため息をつきながらも、私を無理やりどかそうとはしない。

この「何をしても許される安心感」が、私にとっての暁だった。


部活終わりに2人でコンビニに寄り道して、並んで帰って、そのまま暁の家で漫画を読む。
というのが私たちの最近のルーティンになっていた。

気の知れた幼なじみと、他愛もない会話をしながらふざけあう放課後は、1番リラックスできて私にとって癒しの時間だ。


そんな平和な空気が破られたのは、数分後のこと。




バタバタバタッ!!


「ももちゃん! みてこれ!!」

階段を駆け上がる激しい足音と共に、暁の部屋のドアが勢いよく開いた。
飛び込んできたのは、興奮度マックスの暁ママ。

手には、スマホを握りしめられている。

「MISSAの事務所がね、新人オーディションするんだって! 暁を応募しよ!!」
「えええ!! あの事務所が!?最高じゃん!暁なら絶対受かる!!」

飛び起きた私は、暁ママと一緒にスマホを覗き込んで大はしゃぎした。
『MISSA』は私が大好きな女性アイドルグループ。そのMISSAが所属している超大手の芸能事務所が、オーディションを開催するなんて超珍しい事だ。

昔から暁ママと「暁はアイドル顔だよね~」「絶対アイドル向いてると思う!」なんて会話をよくしていたこともあり、私と暁ママは目を輝かせて暁を見つめる。

これはまたも無い絶好のチャンス!!

「おい、勝手に話進めんなよ……」

当の本人はというと、机の椅子に深く座り直し、スマホをいじりながら心底興味なさそうに呟いた。

「だって暁、顔もスタイルもいいし! 歌だって上手いじゃん!」

「そうよそうよ! お母さん、もう履歴書用の写真撮る準備できてるからね!」

「……勝手にしたら。どうせ受かるわけないし」


面倒くさそうにひらひらと手を振る暁。私と暁ママは「やったー!」とハイタッチを交わした。

でもこの時の私は、これがまさか大ごとになるなんて思ってもいなかった。

「暁がオーディション受ける(かも)」というイベントを、ただの楽しいお祭り騒ぎとして消費していただけだったのだ。