紺桔梗の転調





 先日の金曜日、洋菓子店で見た仁志君の淡々とした様子は、一ミリもこちらを認識している風には見えなかった。学部内で目が合った覚えさえないや。

 高井君が大学入学を機に、遠方からやって来たってことは知ってる。高井君と仁志君が大学以前の知り合いだったとは、今知った。

 突然のケーキのくだりさえなければ、仁志君の名前が私たちの間に頻発することもなかったのだ。

「宮ちゃん、濡れるよ。中に入りなよ」

 数段の外階段を登り、傘を閉じる。

「まぁ、気楽に考えて」

「分かった……ちょっと、ビックリした」







挿絵・にじジャーニーで作成