ギミック・ラブ  ~年下小悪魔の上手な飼い方~ 【野いちごver】

「……そう? ていうか何ヘラヘラしてんのよ? 柚木のこと考えて呆けるのはまだ早いわよ!?」
「失礼ね、そんなんじゃないわよ!」

……まぁ、半分は当たってるけど。

「ほら、会社始めてちょうど一年くらいでしょ。だからちょっと、色々思い出してたの」

ばつの悪さをごまかすように早口で話していたら、耳に小さな音が届いた。

ここは安ビルだから、廊下の音がけっこう響く。だからすぐにわかった。これが、耳慣れたいつもの足音だってことが。

「……お、予定より早めにお戻りみたいね」

奈々も気づいて「ラッキー」と指を鳴らす。どうやら行方不明のファイルはまだ見つかってなかったらしい。

「会場と移動経路の下見、特に問題なかったってことかな」
「恐らくね。まぁ当然よ。私達が連日歩き回って探してるいい会場なんだから」

ふふっと笑いながら言った時、ガチャリと音を立ててドアが開いた。

その先には、スーツ姿でアタッシュケースを右手に持った長身。

整った顔立ちと、その額にかかる長めの黒髪がドキッとするほど色気があってかっこいい。

眼鏡はかけていない。
今の瞬也には、素顔を隠す仮面はもう必要ないから。

「ただいま。どうしたの美咲、まじまじと俺見て」

ドアの前できょとんとしている瞬也に、私は今こうして同じ場所に帰ってこられることの尊さを、改めて嚙みしめながら微笑んだ。


「見たかったから見てた。──おかえり、瞬也」




 〇END〇