四月の終わり、教室の窓から差し込む光が少しだけ夏の匂いを帯び始めたころ。
私は、いつも通りクラスの中心で笑っていた。
笑っている“ふり”をしていた。
——本当は、胸の奥がずっと痛かった。
余命を告げられてから、
私は自分の人生を“演じる”ようになった。
友達と話すときも、
先生に呼ばれたときも、
家に帰って家族と食卓を囲むときも。
そして、もうひとつ。
君の前でも。
君は、クラスの隅にいるタイプだった。
目立たなくて、静かで、
でも誰よりも人の変化に敏感な、そんな子。
私は君のことを、
クラスメイトとしてしか見ていなかったはずなのに——
いつの間にか、
君の視線を探すようになっていた。
そんな自分に気づいたのは、
バイト先で偶然、君と同じシフトになった日だった。
「……あ、同じだったんだ」
君は少し驚いたように目を丸くして、
「これからよろしくね」
バイトが始まると、君は慣れない手つきで皿を運んだり、注文を取ったりしていた。
不器用なのに、一つひとつの動作が丁寧で、
誰かに怒られないように、迷惑をかけないように、
そんなふうに周りを気にしながら動いているのがわかった。
私は、そんな君を横目で見ていた。
見てはいけないと思いながら、
視線が勝手に追いかけてしまう。
「……あの、これ、お願いします」
君が私に皿を渡すとき、
ほんの少しだけ指が触れた。
その一瞬だけで、
心臓が跳ねる。
——やめて。
——そんなふうに優しくしないで。
私は自分に言い聞かせた。
君の優しさに触れるたび、
“生きたい”という気持ちが強くなってしまうから。
「今日、なんか元気ないね」
君がそう言った。
気づかれたくなかった。
気づかれるはずがないと思っていた。
「別に。疲れてるだけ」
私は笑ってみせた。
嘘だとわかってほしくなかった。
でも、わかってほしい気持ちもどこかにあった。
君は少しだけ眉を寄せて、
それ以上は何も言わなかった。
その沈黙が、
どうしようもなく優しかった。
バイトが終わるころ、
君は帰り支度をしながら、
ぽつりと呟いた。
「……俺、もっと話したいと思ってたんだ。
でも、迷惑だったらごめん」
胸が痛んだ。
痛くて、苦しくて、
息が詰まりそうだった。
本当は、迷惑なんかじゃない。
本当は、もっと話したい。
本当は、君と一緒にいたい。
でも——
それを言ってしまったら、君を巻き込んでしまう。
だから私は、
またひとつ嘘をついた。
「……迷惑とかじゃないよ。
ただ、同じバイトってだけだから」
君は一瞬だけ目を伏せた。
その表情が、胸に刺さる。
「……そっか。うん、わかった」
君はそれ以上何も言わず、
静かに帰っていった。
残された私は、
誰もいない更衣室で、
そっと胸に手を当てた。
——ごめん。
——本当は、君のことが……。
言葉にならない想いが、
喉の奥で震えていた。
私は、いつも通りクラスの中心で笑っていた。
笑っている“ふり”をしていた。
——本当は、胸の奥がずっと痛かった。
余命を告げられてから、
私は自分の人生を“演じる”ようになった。
友達と話すときも、
先生に呼ばれたときも、
家に帰って家族と食卓を囲むときも。
そして、もうひとつ。
君の前でも。
君は、クラスの隅にいるタイプだった。
目立たなくて、静かで、
でも誰よりも人の変化に敏感な、そんな子。
私は君のことを、
クラスメイトとしてしか見ていなかったはずなのに——
いつの間にか、
君の視線を探すようになっていた。
そんな自分に気づいたのは、
バイト先で偶然、君と同じシフトになった日だった。
「……あ、同じだったんだ」
君は少し驚いたように目を丸くして、
「これからよろしくね」
バイトが始まると、君は慣れない手つきで皿を運んだり、注文を取ったりしていた。
不器用なのに、一つひとつの動作が丁寧で、
誰かに怒られないように、迷惑をかけないように、
そんなふうに周りを気にしながら動いているのがわかった。
私は、そんな君を横目で見ていた。
見てはいけないと思いながら、
視線が勝手に追いかけてしまう。
「……あの、これ、お願いします」
君が私に皿を渡すとき、
ほんの少しだけ指が触れた。
その一瞬だけで、
心臓が跳ねる。
——やめて。
——そんなふうに優しくしないで。
私は自分に言い聞かせた。
君の優しさに触れるたび、
“生きたい”という気持ちが強くなってしまうから。
「今日、なんか元気ないね」
君がそう言った。
気づかれたくなかった。
気づかれるはずがないと思っていた。
「別に。疲れてるだけ」
私は笑ってみせた。
嘘だとわかってほしくなかった。
でも、わかってほしい気持ちもどこかにあった。
君は少しだけ眉を寄せて、
それ以上は何も言わなかった。
その沈黙が、
どうしようもなく優しかった。
バイトが終わるころ、
君は帰り支度をしながら、
ぽつりと呟いた。
「……俺、もっと話したいと思ってたんだ。
でも、迷惑だったらごめん」
胸が痛んだ。
痛くて、苦しくて、
息が詰まりそうだった。
本当は、迷惑なんかじゃない。
本当は、もっと話したい。
本当は、君と一緒にいたい。
でも——
それを言ってしまったら、君を巻き込んでしまう。
だから私は、
またひとつ嘘をついた。
「……迷惑とかじゃないよ。
ただ、同じバイトってだけだから」
君は一瞬だけ目を伏せた。
その表情が、胸に刺さる。
「……そっか。うん、わかった」
君はそれ以上何も言わず、
静かに帰っていった。
残された私は、
誰もいない更衣室で、
そっと胸に手を当てた。
——ごめん。
——本当は、君のことが……。
言葉にならない想いが、
喉の奥で震えていた。
