私は‪‪✕‬‪✕‬を知らないⅢ



『別に』


少し前から休日はこいつの家に邪魔することが増えた。というのも、広い家で一人というのはどうにも暇で仕方ないのだと。


ただ、日中はピアノの練習をしなければいけないらしくこの部屋で過ごすことが多い。お嬢様も大変だなと他人事のように感じたのを覚えてる。


その間俺は寝るなり本を読むなり好きにさせて貰ってるのだから、先程の言葉に嘘はない。


しかし俺の返事には納得していないようだ。


『む、そこはそうだなって言ってよ』


『そう言ったところで何になる』


『そうしたら私がピアノを教えるわ!ここには沢山の楽器だってあるし、他のでも!そうね・・・、ヴァイオリンとか!?』


『俺が?似合わないにも程があるだろ』


『そんな事ないわよ!で、どう!?興味はある!?二人で演奏、とか楽しいと思うんだけど?』


距離を縮めながら問う姿に拒否権なんてないように思うが。


「聞いてくれる人がいない演奏なんて、虚しいだけだわ」


過去にそう呟いたこいつの姿がチラつく。





『・・・たまに、ならな』


『ほんと!?嘘はなしだからね!』


向日葵が咲いたように笑う姿を見て、こいつの、ましろの、我儘を聞くのもいいのかな。─────────なんて。