暴露大会のその後は

それぞれのクラスが帰りのHRを終え、廊下が賑やかになっていく。恋人を待ちながらそわそわしたり、窓越しからHR中のクラスを覗いたりと、華々しい放課後を迎える彼らは意気揚々としていた。__たった一人を除いて。

「はぁぁぁあぁぁ………」

長ったらしい担任の話は脳を突き破り、頭から流れ出ていく。自分の着いた噓が現実になってしまった以上、もうどうでもよかった。
問題は、好きな人の前で他の男とキスをしてしまったことだった。私より、後ろの席にいる湊の表情を見ることもできず、そもそも見る勇気もなかった。

「じゃあ、皆気を付けて帰るように…それと、委員会ある人たちは忘れずに~」

担任が教壇にファイルを置いた瞬間、クラスメイトたちは一斉に席を立ち、騒がしく廊下へ飛び出していった。私も流されるようにリュックを背負い、教室を出ようとすると、ドアの前では園田先輩がひらひらと手を振って待っていた。

「いつもサボるのに、なんで今日はわざわざ迎えに来るほど委員会やる気なんですか」
「失礼だな~? 俺はいつだって真面目に委員会出てるでしょ!」

一度もまともに仕事したことないくせに…と心の中で悪態をつきながら教室を出た。けれど、背中を追うみたいに風が窓を吹き抜け、リュックの紐がぐいっと引かれる。振り向くと、息を切らした湊が、園田先輩をまっすぐ見つめていた。

「園田先輩、今日俺が委員会変わります」
「え、でもお前、飼育委員会じゃないだろ」
「引退試合近いんだから、いいから変わってください」

リュックの紐を手放さないまま、相変わらず生意気な口調と大きな態度だった。制服のズボンに練習着といった、いかにも部活に行く格好から土壇場で決めた行動だったことがすぐに分かった。

「えー、俺、泉ちゃんに聞きたい話たくさんあったのにー」
「今日の練習メニュー、先輩の好きな試合形式らしいですよ」
「あ、まじか、どうしよう」

単純とは、こういう人のことをいうのだろうか。園田先輩は目の色を変えて、頭を抱え始めた。二年生フロアで浮いている園田先輩は、視線を集めるものの、彼の頭にはバレーボールのことしかない。

「すまない湊、委員会は頼んだ」
「じゃあ俺、部活遅れるって顧問に言っておいてください」
「分かった!また後でな!」

園田先輩は、親指を立てながら体育館へと走り去っていった。まるで嵐が通りすぎていったかのように廊下は静まり返った。隣の湊は、なにも声を掛けてくることはなく、リュックを背負い委員会へと向かっていった。

「あのさ、なんで委員会…」
「後で話すから」

何を考えているのか分からないまま背中を追いかけるうちに、いつの間にか物置小屋へと辿り着いてしまった。薄暗い空間で、掃除用品を取り出しながら湊は呼吸を整えるように大きく息を吐いた。

「なんで彼氏いること隠してたんだよ」
「か…何言ってんの」
「お前、寺田先輩と付き合ってるんだろ」

湊は一切私を見ることもなく、倉庫の奥から掃除用具を取り出した。
そう思われても仕方ないと思っている半ば、まだ何も言っていないのに、決めつけるかのように話す湊に苛立ちが募った。

「付き合っていないし、好きでもない!」

喉の奥底から、何かがこみ上げてくる感覚を必死に抑えた。突然大声を上げた私に、湊は目を見開いて即座に振り向いた。足元には、湊が落としたちりとりが転がり、私の表情を隠してくれる薄暗さは唯一の味方だった。

「は、でも、キスして…」
「した!したけど、それは違くて…」

必死にもごもごと話す私を見つめる湊は、ガシガシと頭を掻いた後、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

「じゃあ、先輩の片思いってだけ?」
「いや、そもそも片想いですらないと…」
「ふーん、そっか」

少しだけ沈黙が流れた後、湊は“あー、くそっ”と悪態を吐きながら、その場にしゃがみ込んだ。何をそんなに気にしているのか分からないけれど、それはきっと私も同じだった。

「湊だって、高橋先輩がいるんじゃないの」

言い返すように口にしたはずなのに、語尾は情けないほど弱くなっていった。というか、早くこの場から消え去りたかった。しゃがみ込む湊は、微動だにせず黙り続けたままで、私はずっとねっとりとした変な汗が止まらなかった。

「俺、高橋先輩と付き合ったなんて一言も言ってねーし」
「でも、さっき湊も似たようなこと言ってきたじゃん」
「お前の場合は、あんなの見せられたら誰だってそう思うだろ!」
「でも!付き合ってなかったじゃん!」
「俺だって高橋先輩と付き合ってねーし!」

狭い倉庫に、荒い息だけが残った。湊は呼吸を整えた後、吹き出すように笑い足元に落ちていたちりとりを拾い上げた。

「俺、高橋先輩の告白断ったんだよ。美人だとは思うけど、よく知らない人に告白されてもって話しだろ」
「え、私てっきり、付き合ったのかと思ってた」
「それはこっちのセリフだから。目の前で急にキスされた俺の身にでもなってみろよ」

心臓に圧し掛かっていたものが一気に消え去るような感覚だった。安堵と嬉しさで、気づけば微かに手が震えていた。先に倉庫から出る湊の背中を眺めながら、ゆっくりと立ち上がった。

「明日、寺田先輩に報告でもしようかな」

これからもよろしくと手を差し伸べられてしまったからには、仲直りしたことも話べきだろう。先輩も安心してくれるなんて、この時はまだ、寺田先輩があんな顔をするなんて、想像もしていなかった。