暴露大会のその後は

「お前、一年生の子に手出したってマジなの?!」

早朝の改札口で、昨日の噂話がもう完成していた。人の口に羽でも生えているのかと思うほど広まるのが早い。

「付き合わなくていいから、キスだけしてくださいって言われたんだよ」
「はぁ!それでキスしたの!?」
「ま、別に減るもんじゃないし?」

軽々とキスをした僕も悪いとは思っているが、そもそもお願いしてきたのは一年生の方である。それなのに、僕がまるで食い漁ったかのように流れている噂はつくづく人間が愚かな生き物だと実感した。

「あ、あとあと、高橋さんがバレー部の二年生に告白したって知ってる?」
「高橋が?」

そして、流れ出る噂話は止まらなかった。

「一年の時から、大会出たってやつ。やっぱ、高橋さんが好きになる相手はレベルが高いのか~」

興味のないトークに“へぇ”と空返事をしてスマホを開いた。
二年のアイカちゃん、一年のモモカちゃん、隣のクラスのコハルちゃん。朝から届いていたメッセージを流れ作業みたいに返していく。いつものことだった。

「おい、颯太聞いてる?」
「ん-、なに?」
「だから、お前だったら高橋さん行けそうなのにって言ったんだけど」

文字を打つ手を止めて、小さくため息を吐いた。
たしかに、高橋さんは目を引くくらい綺麗だ。けれど、わざわざ自分から追いかけに行くほど、女に困ったことはなかった。
最後の一人に返信を返した頃、電車の到着アナウンスが鳴る。
快速が止まるこの駅は朝になると学生で溢れ返る。座席なんて最初から諦めていたし、車両の半分以上は同じ制服だった。

“あ、今日も寺田君いる!”
“今乗ってきたの、寺田先輩だよ”
“ねえ、あの金髪の子かっこいいよね”

ひそひそと聞こえる話声は、特に気が悪いものでもなく、もう慣れたことだった。今日も、いつも通り、ドア横の定位置にもたれかかった瞬間だった。

「うわっ」

顔を上げた先に、びっくりするくらい幸の薄そうな女の子がいた。
今にも灰になって消えそうな顔色で、虚空みたいな一点をじっと見つめている。本気で、霊でも見たのかと思った。

「なに、どうしたの?」
「いや、霊かと思ったけど見間違いだった」
「は!やめろよ、俺そういうの苦手なんだけど」

少しだけ乱れた鼓動を誤魔化すように、浅く息を吐いた。
制服は同じ高校のものだった。リボンの色が赤だから、おそらく二年。
元からああいう雰囲気なのか、それとも何かあったのか。少し気になるくらいには、彼女の顔色は悪かった。
スマホを触る気にもなれず、柄にもなく彼女を横目で見てしまう。
けれど彼女は微動だにせず、ずっと足元だけを見つめていた。
気づけば電車は次の駅へ滑り込み、ドアが開く。人が雪崩れ込むように乗ってきて、車内の空気はさらに窮屈になった。

少しだけ体勢を変え、もう一度あの子を探した。
その姿を見つけた瞬間、なぜか心臓が小さく脈打つ。

「あら、お嬢さん!ありがとう」
「あ、いえ」

顔を上げると、彼女は静かに席を立っていた。
さっきまで今にも消えそうな顔をしていたのに、おばあさんへ向ける笑顔は驚くほど柔らかかった。

同じ子とは思えない。
彼女は軽く頭を下げると、そのまま別の車両へ移っていってしまった。