耳を刺すような目覚まし時計に叩き起こされ、重い体を持ち上げる。
朝が来たことを自覚すると、昨日の事件がフラッシュバックして吐き気を催した。
「泉、遅刻するわよ」
「うん、今起きたとこ」
朝日に嫌気がさし、目の前にかけられている制服を見つめた。
今日は、休もう。そう決心して布団に戻るが、今日の委員会の担当は自分だし園田先輩はサボり癖があるため、再度脳内会議が行われた。結局、ベッドから降りてリビングへ向かう羽目となった。ここまで園田先輩を憎んだことはない。ぼさぼさの髪の毛にクシを通して鏡に映る自分を見つめた。
「クマやっば……」
高校二年生ながら、このやつれた顔はなんなんだ。そりゃあ、これじゃ湊に相手にされるわけがなかった。
「行ってきます」
「朝ごはんは?」
「いらない」
リュックを背負ってローファーを履いた。こんなにも学校が憂鬱になることは初めてだった。仮にあったとしても、湊に会えるから…という理由で学校に行っていたから、原因が湊になってしまえば元も子もなかった。
道端に落ちている石を蹴って、電車に揺られながら外を眺める。まだ……まだ学校に着かないで。
そう思っている時こそ、学校に着くのはあっという間であり、重すぎるため息をが止まらなかった。
朝練中である湊の男子バレー部に遭遇しないよう、息を殺して校舎をくぐった。けれど、こんなところで湊を避けたとしても結局同じクラスなのだから意味がなかった。
「泉おはよう!って、顔真っ青だよ」
「あ、おはよう」
それはそうと、私には湊に合わせる顔がないのだ。ましては、好きな人。
大丈夫…と空笑いをしながらトイレへと向かう。やっぱり、休めばよかった。1日くらいサボってもなんともないはずなのに。
蛇口から溢れ出る水をボーっと眺めた。やっぱり早退しよう。園田先輩には一言残していけば問題ない。そう無理矢理自分を安堵させてトイレを出た。
「あ、泉」
けれど、神様は意地悪だった。
「み、な…と」
部活終わりの湊と鉢合わせをしてしまい、一気に冷や汗がわき出る。分かりやすく目は泳ぎ、手は震える。
「あのさ、昨日のことだけど、まだ聞きたいことあるんだけど」
フェイスタオルで汗を拭い、少しだけ目を伏せた。
「お前、寺田先輩のこと好きなの?それとも、もう付き合ってるの?」
湊の声は低かった。怒っているというより、何かを必死に抑え込んでいるように聞こえた。視線が熱く、痛かった。誤解を解かないと、嘘つきだと思われたくない、でも、今更嘘だなんて言えない……脳内で必死に葛藤するけれど、脳裏にずっと高橋先輩が焼き付いていた。
「すき……だよ」
いっそのこと嘘を貫き通してしまえばいい、弱い私がそう耳で囁いた。目も合わせない私を、静かに見つめる湊は嘲笑するように顔を上げた。
「お前、寺田先輩に遊ばれてるだけなんじゃねえの」
「………っえ」
「泉が寺田先輩に本気で相手にされるわけないだろ」
湊はまた、汗を拭うようにフェイスタオルで顔を覆った。泣きそうだった。“泉なんかが”という言葉が私の心臓を突き破る。
大粒の涙が廊下に垂れて、溢れ止まらなかった。
「え、あ、ごめ」
泣き震える私を見た湊は、困ったようにフェイスタオルを落とした。なんで、あなたがそんな顔をするのか私には理解ができなかった。
「泣くほど好きなのかよ」
「……すきだよ」
そうだよ、私は泣くほど湊が好きだ。けれど、こんな形で散るなんて思わなかった。他の高校に通っていたら何か違かったのかな。もっと早く気持ちを伝えていれば……なんて、変えられない過去に縋ったって無意味なだけだった。
いたたまれなくなって、私はその場から逃げ出した。走って、走って、気づけば屋上まで来ていた。
扉を開けた瞬間、眩しいほどの青空が視界いっぱいに広がる。苦しくなった胸を落ち着かせるように、私は大きく息を吸い込んだ。
「~っはぁ、私なんかが寺田先輩に相手にされるわけないか」
改めてさっきのやりとりを思い出すを胸が苦しくなった。手すりをぎゅっと握って、強がった自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「寺田先輩とキスしたなんて……そんなこと言わなければよかった」
我ながら笑えて来た。せめてもっと、現実味のある人にすればよかったな~なんて嘘をついた私への天罰を憎んだ。
“バタンッ”
突然、扉が閉まる音が響いた。
ヤバいっ……湊が追ってきた………?
反射的に振り向いた。そこに立っていた人物を見た瞬間、背筋が凍りついた。
湊が来たのだとしたら、まだよかった。
振り返った先にいた人物は、そんな予想を軽々と踏み潰した。
「僕と君が、キスをしたって?」
風に吹かれながらなびかれる金色の髪の毛。
逆光の中で微笑むその姿は、まるで物語の中から抜け出してきたみたいだった。
――寺田先輩。
その瞬間、私は理解した。
もう、引き返せない。
朝が来たことを自覚すると、昨日の事件がフラッシュバックして吐き気を催した。
「泉、遅刻するわよ」
「うん、今起きたとこ」
朝日に嫌気がさし、目の前にかけられている制服を見つめた。
今日は、休もう。そう決心して布団に戻るが、今日の委員会の担当は自分だし園田先輩はサボり癖があるため、再度脳内会議が行われた。結局、ベッドから降りてリビングへ向かう羽目となった。ここまで園田先輩を憎んだことはない。ぼさぼさの髪の毛にクシを通して鏡に映る自分を見つめた。
「クマやっば……」
高校二年生ながら、このやつれた顔はなんなんだ。そりゃあ、これじゃ湊に相手にされるわけがなかった。
「行ってきます」
「朝ごはんは?」
「いらない」
リュックを背負ってローファーを履いた。こんなにも学校が憂鬱になることは初めてだった。仮にあったとしても、湊に会えるから…という理由で学校に行っていたから、原因が湊になってしまえば元も子もなかった。
道端に落ちている石を蹴って、電車に揺られながら外を眺める。まだ……まだ学校に着かないで。
そう思っている時こそ、学校に着くのはあっという間であり、重すぎるため息をが止まらなかった。
朝練中である湊の男子バレー部に遭遇しないよう、息を殺して校舎をくぐった。けれど、こんなところで湊を避けたとしても結局同じクラスなのだから意味がなかった。
「泉おはよう!って、顔真っ青だよ」
「あ、おはよう」
それはそうと、私には湊に合わせる顔がないのだ。ましては、好きな人。
大丈夫…と空笑いをしながらトイレへと向かう。やっぱり、休めばよかった。1日くらいサボってもなんともないはずなのに。
蛇口から溢れ出る水をボーっと眺めた。やっぱり早退しよう。園田先輩には一言残していけば問題ない。そう無理矢理自分を安堵させてトイレを出た。
「あ、泉」
けれど、神様は意地悪だった。
「み、な…と」
部活終わりの湊と鉢合わせをしてしまい、一気に冷や汗がわき出る。分かりやすく目は泳ぎ、手は震える。
「あのさ、昨日のことだけど、まだ聞きたいことあるんだけど」
フェイスタオルで汗を拭い、少しだけ目を伏せた。
「お前、寺田先輩のこと好きなの?それとも、もう付き合ってるの?」
湊の声は低かった。怒っているというより、何かを必死に抑え込んでいるように聞こえた。視線が熱く、痛かった。誤解を解かないと、嘘つきだと思われたくない、でも、今更嘘だなんて言えない……脳内で必死に葛藤するけれど、脳裏にずっと高橋先輩が焼き付いていた。
「すき……だよ」
いっそのこと嘘を貫き通してしまえばいい、弱い私がそう耳で囁いた。目も合わせない私を、静かに見つめる湊は嘲笑するように顔を上げた。
「お前、寺田先輩に遊ばれてるだけなんじゃねえの」
「………っえ」
「泉が寺田先輩に本気で相手にされるわけないだろ」
湊はまた、汗を拭うようにフェイスタオルで顔を覆った。泣きそうだった。“泉なんかが”という言葉が私の心臓を突き破る。
大粒の涙が廊下に垂れて、溢れ止まらなかった。
「え、あ、ごめ」
泣き震える私を見た湊は、困ったようにフェイスタオルを落とした。なんで、あなたがそんな顔をするのか私には理解ができなかった。
「泣くほど好きなのかよ」
「……すきだよ」
そうだよ、私は泣くほど湊が好きだ。けれど、こんな形で散るなんて思わなかった。他の高校に通っていたら何か違かったのかな。もっと早く気持ちを伝えていれば……なんて、変えられない過去に縋ったって無意味なだけだった。
いたたまれなくなって、私はその場から逃げ出した。走って、走って、気づけば屋上まで来ていた。
扉を開けた瞬間、眩しいほどの青空が視界いっぱいに広がる。苦しくなった胸を落ち着かせるように、私は大きく息を吸い込んだ。
「~っはぁ、私なんかが寺田先輩に相手にされるわけないか」
改めてさっきのやりとりを思い出すを胸が苦しくなった。手すりをぎゅっと握って、強がった自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「寺田先輩とキスしたなんて……そんなこと言わなければよかった」
我ながら笑えて来た。せめてもっと、現実味のある人にすればよかったな~なんて嘘をついた私への天罰を憎んだ。
“バタンッ”
突然、扉が閉まる音が響いた。
ヤバいっ……湊が追ってきた………?
反射的に振り向いた。そこに立っていた人物を見た瞬間、背筋が凍りついた。
湊が来たのだとしたら、まだよかった。
振り返った先にいた人物は、そんな予想を軽々と踏み潰した。
「僕と君が、キスをしたって?」
風に吹かれながらなびかれる金色の髪の毛。
逆光の中で微笑むその姿は、まるで物語の中から抜け出してきたみたいだった。
――寺田先輩。
その瞬間、私は理解した。
もう、引き返せない。
