暴露大会のその後は

私・本田泉(ほんだいずみ)には、生まれた病室からずっと一緒な幼馴染がいる。
もはや、高校まで一緒となると腐れ縁といっても過言ではない。

「なんでわざわざ平安時代の物語を読まなくちゃいけないんだよ!」
「テスト範囲だから、仕方ないでしょ」

幼馴染の舟木湊(ふなきみなと)は、古典が大の苦手で泣きつくように電話をかけていた。
テスト期間になると、こうして電話をしながら勉強するのは恒例行事でお互いの苦手科目を補っていた。そして

___湊のことが好きな私にとってはとても至福の時間だった。

「泉、問3分からないんだけど」
「あー、そこはね」

名前を呼ばれる度に鼓動が跳ねる。けれど、ここまで付き合いが長いと今更といったところだ。
付き合いたいのかも、叶えたいのかも、もう自分でも分からなかった。

「そういえばさ、三島って1年の子に告白されたらしいよ」

突然の話題に、耳が傾いた。

「なに、突然」
「いや、面白いじゃん、こういう色恋沙汰って」

ふーんと言いながら、興味をないふりをした。こういう話題がきっかけで、好きバレしてしまうことを恐れていたのだ。


「で、泉は好きな人とかいないの?」
「いないよー」
「ほんとかよ」

ガリガリとシャープペンを滑らせる音を、わざと響かせた。しかし、そんな遠回しな防御が効くことこともなく、湊はトークを続けた。

「なあ、暴露大会しようぜ」

パキッと芯が折れた。止まった手が震え、冷や汗はにじみ出る。
冷静を保てば、上手く立ち回れたはずなのに、考えれば考えてしまうほど正気を失う。

「いいよ」
「よっしゃ、じゃあ俺からね」

自分の鼓動が聞こえる。トークに乗ってしまったことを後悔しながらも自分の暴露ネタを必死に探した。

「俺実は、この前の練習試合で他校行ったとき、三島とナンパしたんだけど相手が園田先輩の妹だった」
「なにしてんのよ」

呆れたように笑って流した。湊がナンパだなんて今に始まったことではない。こんなの慣れっこだし、特になんとも思わなかった。

「園田先輩シスコンらしいけどバレてないの?」
「え、なんで泉それ知ってんの?」

予想外の質問返しに手が止まる。

「なんでって、私園田先輩と委員会一緒だし」
「そんな話す仲なの?」
「まあ、たまに二人で仕事するときあるし」

淡々と返すと湊の声のトーンが少し下がる。湊は時々よくわからないところがあった。

「あー、てか俺、この前高橋先輩に告白されたんだよね」

湊の突然の一言で、心臓が大きく脈打った。耳にまで響く鼓動が徐々に早まり、返す言葉を失った。
3年の高橋凛音(たかはしりおん)先輩は学校で“美人”と有名な人だった。学校のマドンナ的存在で男子にとっては憧れの的である先輩が、よりによって湊に……

「へ、へえー」

泣きそうだった。そんな先輩に告白されて断るはずがない。きっと、湊はこれを言いたいがために暴露大会を始めたに違いない。
徐々に湧き上がってくる自分勝手な怒りが私の後悔を生んでしまった。

「まあ、私も実は…」

言葉が詰まる、湊は何も喋らない。どうしよう...どうしよう

「寺田先輩とキスしたことあ……る…」

瞬間、後悔と焦りに襲われる。嘘をついてしまった、よりによって、高橋先輩と並ぶ有名人寺田颯太(てらだそうた)先輩とだなんて。
丸わかりの嘘だと気づいた瞬間すぐにネタばらしをしようと試みるが、もう手遅れだった。通話はすでに切られており、心臓を握られたかのように苦しくなる。

「オワッタ…………」

絶望で頭を抱え、ジワジワとあふれ出してくる涙に嫌気がさした。
その瞬間、____ピンポーン。

と、インターホンが鳴った。
ただの宅急便だろうと、湊とのトーク画面を見つめ直し、嘘をついたことを謝ろうとした。が______

「泉、湊君よ」

母の言葉で力を失い、バタッ……とスマホを落とした。浅くなる呼吸が苦しく、走って玄関へと向かった。


「な、なんで…」
「お前」

汗をかいて息を切らしていた。走ってきたのだとすぐに分かった。

「寺田先輩とって、マジなの」

手の甲で汗を拭い、鋭い視線を私に向けた。自分だって...高橋先輩がいるくせに...
こんなつもりじゃなかった。この時点で誤解を解けばよかった。

「湊には関係ない」

私は、湊と目を合わせることなく、そのまま家の中に逃げてしまった。


「違う…こんなつもりじゃなかったのに」