私が溺愛されるなんて

「本当に、美桜って俺のこと好きなの?」

「好きに決まってるじゃん。だから付き合ってるんでしょ?」

「…美桜ってさ、いっつも何考えてるかわかんないし、反応薄いし、つまんないんだよね。」

また、このセリフ。言われ慣れすぎてもう何も感じなくなった。

「…ごめんなさい。」

「…はぁ。もう別れよ無理だわ。」

そう言って彼氏。いや今元彼氏になった優斗は私をカフェに置いて去っていった。

表情が変わらない、何考えてるのかわかんない、反応薄い。そんなのは自分がいちばんよくわかってる。出したくても出せない。出して嫌われるくらいなら出さない方がマシ。そう思い始めたのはいつからだっただろう…。

「…ねえ、君」

私は、愛想も悪い。だから私に話しかけてくる人なんてほとんど居ない。なのに、今話しかけてくるこの人は誰?

「…なんですか?」

「泣いてるけど、大丈夫?」

「え…?泣いてなんか…」
私は、手を目元にやった。すると知らない男性が言った通り、目元が濡れていた。

「…そんだけ、彼のことを好きだったんだね。」

「…大好きだった。こんな私のことを好きって言ってくれて。彼だけは私を理解してくれるって思ってた。」

「君に思われてた彼は幸せだね」

「…幸せなんかじゃないです。私が感情を出すのが下手だから、もっと彼に何かを伝えることができていたら、彼にあんな思いをさせなくて済んだのに。…って初対面の人にこんなこと言ってごめんなさい。忘れて下さい。」

初対面の人に私なんでこんなにベラベラ喋ってんだろ…

「初対面の人にこんなこと言う俺も大概だけど、俺とデートしてみない?」

「…へっ?」

「俺は君に一目惚れしました。…名前はなんて言うの?」

「…み、美桜です」

「美桜ちゃん。君は''こんな''って言ったけど、俺は美桜ちゃんだから惹かれました。こんなおっさんに言われるのも嫌かもしれないけど、俺は美桜ちゃんをもっと知りたいと思ったよ。」

もっと知りたいって言われたのもこんなに真剣に私に好意を伝えてくれるのも初めてだった。
気になって、顔を見ると…

「やっと、こっち見てくれたね。俺の名前は楠隼人。年は26歳です」

楠隼人さん…。笑顔が爽やかで、人に不快な思いをさせなさそうな人。これが彼の第1印象だった。


「楠さん。…私なんかに興味を持ってくださったのはとても嬉しいです。でも、私は…」

「…正直に言うと俺は美桜ちゃんがとっても心配です。」

「…」

「泣いている君を見て放っておけなかったのも事実。でも今は、それ以上に君に惹かれてる。…俺に騙されてみない?」

「騙される…?」

「そう。俺は美桜ちゃんのことを絶対に楽しませる自信がある。だから今週の土曜日の昼12時にこのカフェでまた会おう。」

「…いやいや」

「来るか、来ないかは美桜ちゃんが決めていいよ。俺は待ってるから。…でもその代わり、来てくれたその時は今日みたいに聞き分けいい男は辞めるから。その覚悟はしてきてね」

楠さんの妖しいけど綺麗な微笑みから私は目を話せなかった。

「電話番号も何も聞かない。土曜日に来なかったら、俺は諦めるし、もうこのカフェにも来ない。じゃあ、今日は解散にしよう。気をつけて帰るんだよ。」

「…はい。分かりました。」

楠さんは立ち去ろうとする時にお会計の札を持って歩いていった。

「あ、楠さん!それは、私の!」

すると、楠さんはウインクし、人差し指を立てて、

「これくらい払わせて、格好つけさせてよ。じゃあね美桜ちゃん。」

私が追いつく間もなく楠さんは帰っていった。

私なんかのために時間を割いて話してくれて、デートに誘ってくれて、今日のお会計も払ってくれて。なんでこんなことしてくれるんだろう。
私の頭の中は土曜日の楠さんのことでいっぱいになりつつあった。