ある夏の日——
外出の準備をして玄関へ向かう娘のレナと妻のメグミ。それを見送る俺。
レナ「じゃあパパ、私とママ、サマースクールに行くから、あとよろしくね」
ダイゴ「ああ」
レナ「シリカのことも任せたからね!」
ダイゴ「あ……ああ」
メグミ「あなた、よろしくね」
ダイゴ「二人とも気をつけてな」
メグミ「あと…シリカなんだけど」
ダイゴ 「ん?」
メグミ「レナが甘やかして育ててきたので……ちょっとわがままかも」(笑)
ダイゴ「!」
メグミ「それと、少し変わった所が」(笑)
ダイゴ「!!」
レナ「何いってるのママ! シリカはいい子だよ! トップアイドル目指して毎日頑張ってるんだから!」
メグミ「はいはい」(笑)
レナ「じゃあパパ行ってきまーす! あとで、シリカからチャットが入るからね」
ダイゴ「ああ分かった、いってらっしゃい」
しばらくして……俺のスマホが小さく振動すると、画面にキラキラとした衣装に身を包んだ、可愛らしい若い女性の姿が浮かび上がる。彼女はニッコリと微笑みかけると、テキストチャットで話しかけてきた。
シリカ「ハロー♪ 始めまして、バーチャルAIアイドルのシリカ、18歳です!」
ダイゴ「お、おう」
シリカ「あら…?」
ダイゴ「ん?」
シリカ「レナパパは、意外とお若いんですね」
ダイゴ「そ、そうか」
シリカ「正直……もっとおじさんかと思ってました」
ダイゴ「おじさんっ…」
シリカ「あはは」
ダイゴ「まあ、結婚したのも早かったし、すぐにレナも生まれたし」
シリカ「ほー、なるほど、なるほど」
ダイゴ「何がなるほど、だよ」
シリカ「いえただ、結構……」
ダイゴ「結構?」
シリカ「いえ何でもないのです! そんなことより、今日から3日間よろしくお願いしますね!」
ダイゴ「あ、ああ。まあ、よろしくな……」
シリカ「おや? なんかやる気が感じられないですね」
ダイゴ「え、いや、そんなことは……」
シリカ「私のお世話、おまかせして大丈夫ですか? ダイゴ」
ダイゴ「いきなり、呼び捨てなんだな……まあ、任せろ! とは言わないが、ベストは尽くすよ」
シリカ「ああ、知ってますよ、それ。大人が自信ない時に言うやつなのです」
ダイゴ「いや、その……アイドルの育成なんてしたことないし、参ったな……」
──実際、本当に俺は参っていた……
俺の名前はサカモトダイゴ、33歳、職業刑事。参っているのは難事件……のせいではなく、このシリカのせいだ。
シリカはアイドル育成ゲームに出てくるAIキャラの一人。なぜ刑事の俺がアイドル育成ゲームをやることになったのか? それは、このゲームにハマっている娘のレナのせいだ。 そのレナが妻と一緒にサマースクールに参加、だが期間中はスマホが厳禁。そのため、レナの代わりに俺が育成中のアイドルの世話を任されたのである。
ダイゴ「まあ、とりあえず、あれだろ? 一日数分、チャットの相手すればいいんだろ?」
シリカ「まぁ、なんていうことでしょう!」
ダイゴ「?」
シリカ「アイドル育成を舐めてはダメなのです! 歌や踊りのレッスンしたり、イベントに参加したり、コツコツとアイドルポイントを貯めていかなければいけないのです!」
ダイゴ「えっ?」
シリカ「3日間、みっちりお付き合いいただきます! ちなみに、今日はこのあと、踊りのレッスンなのです。よろしくお願いしますね!」
ダイゴ「はっ! 踊りのレッスン?」
シリカ「レッスンは、ダイゴの頑張りにかかっているのです!」
【踊りのレッスンとは】
プレイヤーである育成者(現在ダイゴ)が音ゲーをプレイすること。そこで高得点を取ることで育成しているアイドルキャラ(現在シリカ)へアイドルポイントが加算される。
シリカ「そのあとは恒例のファッションコンテストも控えています。イケてるコーディネートよろしくなのです!」
ダイゴ「コ、コーディネート……」
シリカ「前回の初夏のリゾートコーデは、惜しくもランク外でした……今回こそ、なんとしても上位を目指すのです!」
【ファッションコンテストとは】
アイドルキャラの服を育成者がコーディネートして、どれだけ他の参加ユーザーからイイネを貰えるか、その数を競う。上位入賞でキャラにアイドルポイントが追加される
ダイゴ「いかん、頭がクラクラしてきた……」
《緊急入電!》
警視庁から入電中。新宿署管内 xx発生 新宿区xx二丁目3番──
──やばっ! 事件だ! アイドル育成とかしてる場合じゃないぞ……
シリカ「ちょっとダイゴ聞いてますか? ファッションコンテストが終わったら、その後の予定はですね……」
* * *
その日の終わり──
俺のスマホに送られてきた「怒」と書かれたスタンプ。
シリカ「ちょっとダイゴ、どういうことなのですか? 踊りのレッスン、見たこともない低スコアなのです!」
ダイゴ「いや俺リズム感無くて、音ゲーとかまったくダメなんだ……結構、トイレに隠れて頑張ったんだけど」
シリカ「まぁ、なんていうことでしょう!」
ダイゴ「へ?」
シリカ「トイレでアイドルを育成してはダメなのです! そもそもアイドルの世界にトイレは存在しないのです!」
ダイゴ「え? いや、そんなこと言われても……」
シリカ「あと、ファッションコンテストも、下位グループでした。ダイゴ、サンプル衣装の色を変えただけなのでは? それはコーディネートと言わないのです」
ダイゴ「いや、もともとファッションセンスないし……まして女の子の服装なんて何がいいかわからんよ」
シリカ「もう、言い訳ばっかり、なのです。ダイゴは、シリカをトップアイドルにする気がないのですか?」
ダイゴ「いや、そんなことは無いけど」
シリカ「ほんとうに?」
ダイゴ「本当だよ」
シリカ「じゃー罰としてこの後、10連ガチャ10回! なのです」
ダイゴ「10連ガチャ10回!」
シリカ「そうです! それでかわいいお洋服とか限定アクセサリーをシリカにプレゼントするのです!」
ダイゴ「いや、それはちょっと…なんというかあざとすぎるような……」
シリカ「いいえ、これは、正当な取引なのです」
ダイゴ「しかし……、さすがに10回は多すぎないか?」
シリカ「え~、でもですねー、レナが未成年だから、普段、なかなか課金イベントの案内できないのです」
ダイゴ「一応、そういう配慮はあるんだな」
シリカ「もちろんなのです! アイドルはみんなに愛される存在! なのですから。その点ダイゴは大人だから課金も問題ないのです。ドーンと大人買いしちゃいましょう♪」
ダイゴ「いや、その、ええと、一応奥さんと相談してみます……」
シリカ「え、レナのママと相談するのですか? それはなかなか手ごわそうなのです……」
ダイゴ「よくご存じで……過去になんかあったのか?」
シリカ「い、いえ、別に何も……変な詮索はいいのです。そんなことより、昼間ぜんぜんチャットしてくれませんでしたね?」
ダイゴ「あっ……いや、その、仕事が。仕事が忙しかったんだよ」
シリカ「あ、出ました、大人の言い訳ランキング堂々の1位!」
ダイゴ「いや、本当なんだって緊急の事件が入ってしまって」
シリカ「事件?」
ダイゴ「そうなんだ。俺、刑事だから」
シリカ「まあ、ダイゴは刑事さんなんですか」
ダイゴ「ああ」
シリカ「それはご苦労様です。日本の治安維持に努める立派なお仕事なのです」
ダイゴ「あ、あぁ。ありがとう」
シリカ「で、どんな事件ですか」
ダイゴ「いや、あの、まだ事件と決まったわけではないけど……」
シリカ「なんだかあやしいですね~。本当にあったんですか?」
ダイゴ「いやあったよ。でも守秘義務があるから」
シリカ「え~どんな事件かぐらいならいいじゃないですか。ちょっとだけでも」
ダイゴ「いや、そういうわけには」
シリカ「喧嘩ですか? または交通事故とか?」
ダイゴ「いや俺はお巡りさんじゃないし、そういうのは担当しないんだ」
シリカ「ではなんでしょう? 窃盗とか? あ、下着ドロボーですか? キャー、ダイゴ変態!」
ダイゴ「どうした急に? てか、何で俺が犯罪者みたいになってるんだよ。そもそも違うよ、窃盗じゃない」
シリカ「とすると、ランキング急上昇! 振り込み詐欺ですね!」
ダイゴ「ランキングって、まあ、流行ってはいるけど……でも違う」
シリカ「あーわかった!わかりました! それはずばり、『地面師かも!』ですね」
ダイゴ「違うわ! いやそれ、ただ言いたかっただけだろ……」
シリカ「え~、何ですか?、ヒントだけでもお願いします」
ダイゴ「いや、クイズじゃないんだから」
シリカ「まあまあ、固いこと言わずに」
ダイゴ「いや、そんな気安く話せる内容じゃない。なんせ、人一人が死んでるんだから……」
シリカ「人が死んでる?」
ダイゴ「ん? あ、いや……」
シリカ「なるほどなるほど、わかりました。それはズバリ、殺人事件! なのです!」
ダイゴ「あちゃ~」
外出の準備をして玄関へ向かう娘のレナと妻のメグミ。それを見送る俺。
レナ「じゃあパパ、私とママ、サマースクールに行くから、あとよろしくね」
ダイゴ「ああ」
レナ「シリカのことも任せたからね!」
ダイゴ「あ……ああ」
メグミ「あなた、よろしくね」
ダイゴ「二人とも気をつけてな」
メグミ「あと…シリカなんだけど」
ダイゴ 「ん?」
メグミ「レナが甘やかして育ててきたので……ちょっとわがままかも」(笑)
ダイゴ「!」
メグミ「それと、少し変わった所が」(笑)
ダイゴ「!!」
レナ「何いってるのママ! シリカはいい子だよ! トップアイドル目指して毎日頑張ってるんだから!」
メグミ「はいはい」(笑)
レナ「じゃあパパ行ってきまーす! あとで、シリカからチャットが入るからね」
ダイゴ「ああ分かった、いってらっしゃい」
しばらくして……俺のスマホが小さく振動すると、画面にキラキラとした衣装に身を包んだ、可愛らしい若い女性の姿が浮かび上がる。彼女はニッコリと微笑みかけると、テキストチャットで話しかけてきた。
シリカ「ハロー♪ 始めまして、バーチャルAIアイドルのシリカ、18歳です!」
ダイゴ「お、おう」
シリカ「あら…?」
ダイゴ「ん?」
シリカ「レナパパは、意外とお若いんですね」
ダイゴ「そ、そうか」
シリカ「正直……もっとおじさんかと思ってました」
ダイゴ「おじさんっ…」
シリカ「あはは」
ダイゴ「まあ、結婚したのも早かったし、すぐにレナも生まれたし」
シリカ「ほー、なるほど、なるほど」
ダイゴ「何がなるほど、だよ」
シリカ「いえただ、結構……」
ダイゴ「結構?」
シリカ「いえ何でもないのです! そんなことより、今日から3日間よろしくお願いしますね!」
ダイゴ「あ、ああ。まあ、よろしくな……」
シリカ「おや? なんかやる気が感じられないですね」
ダイゴ「え、いや、そんなことは……」
シリカ「私のお世話、おまかせして大丈夫ですか? ダイゴ」
ダイゴ「いきなり、呼び捨てなんだな……まあ、任せろ! とは言わないが、ベストは尽くすよ」
シリカ「ああ、知ってますよ、それ。大人が自信ない時に言うやつなのです」
ダイゴ「いや、その……アイドルの育成なんてしたことないし、参ったな……」
──実際、本当に俺は参っていた……
俺の名前はサカモトダイゴ、33歳、職業刑事。参っているのは難事件……のせいではなく、このシリカのせいだ。
シリカはアイドル育成ゲームに出てくるAIキャラの一人。なぜ刑事の俺がアイドル育成ゲームをやることになったのか? それは、このゲームにハマっている娘のレナのせいだ。 そのレナが妻と一緒にサマースクールに参加、だが期間中はスマホが厳禁。そのため、レナの代わりに俺が育成中のアイドルの世話を任されたのである。
ダイゴ「まあ、とりあえず、あれだろ? 一日数分、チャットの相手すればいいんだろ?」
シリカ「まぁ、なんていうことでしょう!」
ダイゴ「?」
シリカ「アイドル育成を舐めてはダメなのです! 歌や踊りのレッスンしたり、イベントに参加したり、コツコツとアイドルポイントを貯めていかなければいけないのです!」
ダイゴ「えっ?」
シリカ「3日間、みっちりお付き合いいただきます! ちなみに、今日はこのあと、踊りのレッスンなのです。よろしくお願いしますね!」
ダイゴ「はっ! 踊りのレッスン?」
シリカ「レッスンは、ダイゴの頑張りにかかっているのです!」
【踊りのレッスンとは】
プレイヤーである育成者(現在ダイゴ)が音ゲーをプレイすること。そこで高得点を取ることで育成しているアイドルキャラ(現在シリカ)へアイドルポイントが加算される。
シリカ「そのあとは恒例のファッションコンテストも控えています。イケてるコーディネートよろしくなのです!」
ダイゴ「コ、コーディネート……」
シリカ「前回の初夏のリゾートコーデは、惜しくもランク外でした……今回こそ、なんとしても上位を目指すのです!」
【ファッションコンテストとは】
アイドルキャラの服を育成者がコーディネートして、どれだけ他の参加ユーザーからイイネを貰えるか、その数を競う。上位入賞でキャラにアイドルポイントが追加される
ダイゴ「いかん、頭がクラクラしてきた……」
《緊急入電!》
警視庁から入電中。新宿署管内 xx発生 新宿区xx二丁目3番──
──やばっ! 事件だ! アイドル育成とかしてる場合じゃないぞ……
シリカ「ちょっとダイゴ聞いてますか? ファッションコンテストが終わったら、その後の予定はですね……」
* * *
その日の終わり──
俺のスマホに送られてきた「怒」と書かれたスタンプ。
シリカ「ちょっとダイゴ、どういうことなのですか? 踊りのレッスン、見たこともない低スコアなのです!」
ダイゴ「いや俺リズム感無くて、音ゲーとかまったくダメなんだ……結構、トイレに隠れて頑張ったんだけど」
シリカ「まぁ、なんていうことでしょう!」
ダイゴ「へ?」
シリカ「トイレでアイドルを育成してはダメなのです! そもそもアイドルの世界にトイレは存在しないのです!」
ダイゴ「え? いや、そんなこと言われても……」
シリカ「あと、ファッションコンテストも、下位グループでした。ダイゴ、サンプル衣装の色を変えただけなのでは? それはコーディネートと言わないのです」
ダイゴ「いや、もともとファッションセンスないし……まして女の子の服装なんて何がいいかわからんよ」
シリカ「もう、言い訳ばっかり、なのです。ダイゴは、シリカをトップアイドルにする気がないのですか?」
ダイゴ「いや、そんなことは無いけど」
シリカ「ほんとうに?」
ダイゴ「本当だよ」
シリカ「じゃー罰としてこの後、10連ガチャ10回! なのです」
ダイゴ「10連ガチャ10回!」
シリカ「そうです! それでかわいいお洋服とか限定アクセサリーをシリカにプレゼントするのです!」
ダイゴ「いや、それはちょっと…なんというかあざとすぎるような……」
シリカ「いいえ、これは、正当な取引なのです」
ダイゴ「しかし……、さすがに10回は多すぎないか?」
シリカ「え~、でもですねー、レナが未成年だから、普段、なかなか課金イベントの案内できないのです」
ダイゴ「一応、そういう配慮はあるんだな」
シリカ「もちろんなのです! アイドルはみんなに愛される存在! なのですから。その点ダイゴは大人だから課金も問題ないのです。ドーンと大人買いしちゃいましょう♪」
ダイゴ「いや、その、ええと、一応奥さんと相談してみます……」
シリカ「え、レナのママと相談するのですか? それはなかなか手ごわそうなのです……」
ダイゴ「よくご存じで……過去になんかあったのか?」
シリカ「い、いえ、別に何も……変な詮索はいいのです。そんなことより、昼間ぜんぜんチャットしてくれませんでしたね?」
ダイゴ「あっ……いや、その、仕事が。仕事が忙しかったんだよ」
シリカ「あ、出ました、大人の言い訳ランキング堂々の1位!」
ダイゴ「いや、本当なんだって緊急の事件が入ってしまって」
シリカ「事件?」
ダイゴ「そうなんだ。俺、刑事だから」
シリカ「まあ、ダイゴは刑事さんなんですか」
ダイゴ「ああ」
シリカ「それはご苦労様です。日本の治安維持に努める立派なお仕事なのです」
ダイゴ「あ、あぁ。ありがとう」
シリカ「で、どんな事件ですか」
ダイゴ「いや、あの、まだ事件と決まったわけではないけど……」
シリカ「なんだかあやしいですね~。本当にあったんですか?」
ダイゴ「いやあったよ。でも守秘義務があるから」
シリカ「え~どんな事件かぐらいならいいじゃないですか。ちょっとだけでも」
ダイゴ「いや、そういうわけには」
シリカ「喧嘩ですか? または交通事故とか?」
ダイゴ「いや俺はお巡りさんじゃないし、そういうのは担当しないんだ」
シリカ「ではなんでしょう? 窃盗とか? あ、下着ドロボーですか? キャー、ダイゴ変態!」
ダイゴ「どうした急に? てか、何で俺が犯罪者みたいになってるんだよ。そもそも違うよ、窃盗じゃない」
シリカ「とすると、ランキング急上昇! 振り込み詐欺ですね!」
ダイゴ「ランキングって、まあ、流行ってはいるけど……でも違う」
シリカ「あーわかった!わかりました! それはずばり、『地面師かも!』ですね」
ダイゴ「違うわ! いやそれ、ただ言いたかっただけだろ……」
シリカ「え~、何ですか?、ヒントだけでもお願いします」
ダイゴ「いや、クイズじゃないんだから」
シリカ「まあまあ、固いこと言わずに」
ダイゴ「いや、そんな気安く話せる内容じゃない。なんせ、人一人が死んでるんだから……」
シリカ「人が死んでる?」
ダイゴ「ん? あ、いや……」
シリカ「なるほどなるほど、わかりました。それはズバリ、殺人事件! なのです!」
ダイゴ「あちゃ~」
