〜摂食障害という名の、透明な檻に閉じ込められて~

近くの病院を訪れ、血液検査を行うことになった。

診察室の椅子に腰掛ける楓の体は、大人の椅子に対してあまりにも小さく、軽そうに見えた。

しばらくして、医師が静かに書類を見つめながら切り出した。

「結果から見て、そうですね……。小学生の平均から見ても、数値が少し少ないみたいです。一度、このまま様子を見てみましょう」

「先生、本当に様子を見るだけで大丈夫なんですか? 娘、こんなに痩せてしまって……」

「お母さん、今の段階では無理に食べさせようとせず、本人のペースに任せるのが一番です。また何かあればすぐに来てください」

「……わかりました。ありがとうございます」

まだ決定的な病名は告げられず、経過観察となった。

楓は(ほら、病気じゃないじゃん)と心のどこかで安心していた。

(先生だって様子見でいいって言ってる。お母さんたちが大騒ぎしすぎなんだよ。私は病気なんかじゃない、ただ可愛い自分でいたいだけなのに)

しかし、本当の恐怖はその後にやってきた。

運悪く、流行りの夏風邪を引いてしまったのだ。

高熱にうなされ、体力を激しく消耗した楓の体は、ついに限界を迎えた。

「うっ……、げほっ……!」

「楓!? 大丈夫!? お水飲む?」

「う、うん……。お母さん、ごめん、ちょっと気持ち悪くて……」

「お父さん! 早く洗面器持ってきて!」

「楓、しっかりしろ! 」

風邪がきっかけで、胃が食べ物を受け付けなくなってしまった。

(痩せよう)なんて気持ちは、もうサラサラない。

お父さんもお母さんも泣きそうな顔で心配している。

自分だって、みんなを安心させるために「食べなきゃ」と思っている。

「……食べる。頑張って、食べるから……」

なのに、お粥を一口すするだけで、激しい吐き気が襲ってきて、どうしても吐き出してしまうのだ。

「なんで……? 食べたいのに、出ちゃう……。助けて……」

トイレの床にへたり込み、涙を流す楓の体は、さらに一段と痩せ細り、まるで枯れ木のようになってしまった。

(嘘でしょう……? 痩せたいわけじゃないの。本当にお腹が空いてるの。お父さんとお母さんをこれ以上泣かせたくないのに……!)

吐ききって空っぽのはずの胃が、雑巾を絞られるように痙攣する。

かつては「太るから食べない」という自分の強い意志(コントロール)のなかにいたはずだった。

しかし今は、自分の身体が完全に制御不能になり、牙を剥いて襲いかかってきている。

(身体が食べ物を拒絶してる。私の脳が、食べることを犯罪だって思い込んでるの? 食べたいのに体が許してくれないなんて、こんなの生殺しだよ……。怖い、死んじゃうのかな、私、このまま消えちゃうの……?)

喉の奥がヒリヒリと焼け付くように痛み、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになりながら、楓はただ激しく震えることしかできなかった。