待ちに待った握手会当日。
楓は鏡の前で何度も髪型をチェックし、お気に入りのコーディネートに身を包んだ。頬にほんのりチークを乗せ、最高の笑顔でスマートフォンを構える。
「よし、完璧!」
パシャリと撮った自撮り写真を、高鳴る胸を抑えながらSNSにアップした。
『今日は推しに会いに行きます!! おしゃればっちり決めたよー!』
投稿してすぐ、たくさんの「いいね」や「可愛い!」という友達からのコメントがつき、楓は誇らしい気持ちで胸を膨らませた。
ピコン、とスマホが鳴る。
すぐに陽葵からのラインも届いた。
「楓、めちゃくちゃ可愛い! その服すっごく似合ってる!」
「本当!? 陽葵にそう言ってもらえると自信湧いてきちゃう!」
「うん、お人形さんみたい! 推しも絶対にドキッとしちゃうよ!」
「ありがとう!」
そんなやり取りをしながら、タイムラインをスクロールしていく。
しかし、スクロールしていく指が、ある一行の前でピタリと止まる。
『なんか太くない?』
見知らぬアカウントからの、棘のような言葉。
心臓がドクンと嫌な音を立てた。
それまで満たされていた幸福感が、一瞬で冷や水に変わる。
(え……。わたし、太ってるかな……?!)
慌てて姿見の前に立ち、自分の体を凝視した。
さっきまでお気に入りだったはずのスカートから伸びる足が、急に丸太のように不格好に見えてくる。
友達の陽葵の細い足が脳裏をよぎり、急激な焦燥感が楓の心を支配していった。
楓は震える手で、もう一度スマホの画面を見つめた。
「ねえ、お母さん! 私、最近太ったかな!?」
たまらずリビングに駆け込み、準備をしていた母親にすがるような声をあげる。
「え? 急に何言ってるの、全然そんなことないよ。今のままで十分可愛いい、早く行かないと遅れちゃうよ」
「そんな適当な慰めが聞きたいんじゃないの! ちゃんと見てよ!」
「ちょっと楓、どうしたの急にピリピリして……」
母親の悪気のない言葉さえ、今の楓には「現実から目を背けさせようとしている」ようにしか聞こえなかった。
(お母さんは私の味方だからそう言うんだ。でも、他人の目は誤魔化せない。あのコメントを書いた人は、客観的に見て私が『太い』って思ったからわざわざ書いたんだ……!)
自室に戻り、鍵を閉める。
全身が冷たくなり、じっとりと嫌な汗が背中を伝った。
さっきまであんなに眩しく輝いて見えたお気に入りのコーディネートが、今は自分のみっともなさを強調する最悪の衣装に思えてくる。
(恥ずかしい。こんな体で、こんな太い足で、推しの前に立とうとしてたの? 触れ合おうとしてたの?
もし推しの目にも、私が『太い女の子』って映ったらどうしよう。口では『応援ありがとうございます』って笑顔で言ってくれても、心の中では『うわ、太いな』って幻滅されるかもしれない……)
そう考えた瞬間、胃のあたりがキリキリと痛み出し、猛烈な吐き気が楓を襲った。
胸が締め付けられて、うまく空気が吸えない。
指先が小刻みに震え、スマホを床に落としそうになる。
(みんなは『可愛い』って言ってくれた。でも、あれは友達としての『お世辞』だったの? 本当はみんなも私のこと、太いって笑ってたのかな。陽葵だって、隣に並んだら自分が引き立つから、私を褒めてたの……?)
悪意に満ちた、たった7文字の一言。
それが、楓がこれまで積み上げてきた努力も、自信も、友達への信頼さえも、一瞬で粉々に粉砕してしまった。
世界の中心にいたはずの少女は、今や冷たい画面の向こう側の、誰とも知らぬ悪意の奴隷になっていた。
クローゼットに映る自分の姿を見るのが怖くて、楓は両手で顔を覆い、ただその場にへたり込んで激しい息を繰り返すことしかできなかった。
楓は鏡の前で何度も髪型をチェックし、お気に入りのコーディネートに身を包んだ。頬にほんのりチークを乗せ、最高の笑顔でスマートフォンを構える。
「よし、完璧!」
パシャリと撮った自撮り写真を、高鳴る胸を抑えながらSNSにアップした。
『今日は推しに会いに行きます!! おしゃればっちり決めたよー!』
投稿してすぐ、たくさんの「いいね」や「可愛い!」という友達からのコメントがつき、楓は誇らしい気持ちで胸を膨らませた。
ピコン、とスマホが鳴る。
すぐに陽葵からのラインも届いた。
「楓、めちゃくちゃ可愛い! その服すっごく似合ってる!」
「本当!? 陽葵にそう言ってもらえると自信湧いてきちゃう!」
「うん、お人形さんみたい! 推しも絶対にドキッとしちゃうよ!」
「ありがとう!」
そんなやり取りをしながら、タイムラインをスクロールしていく。
しかし、スクロールしていく指が、ある一行の前でピタリと止まる。
『なんか太くない?』
見知らぬアカウントからの、棘のような言葉。
心臓がドクンと嫌な音を立てた。
それまで満たされていた幸福感が、一瞬で冷や水に変わる。
(え……。わたし、太ってるかな……?!)
慌てて姿見の前に立ち、自分の体を凝視した。
さっきまでお気に入りだったはずのスカートから伸びる足が、急に丸太のように不格好に見えてくる。
友達の陽葵の細い足が脳裏をよぎり、急激な焦燥感が楓の心を支配していった。
楓は震える手で、もう一度スマホの画面を見つめた。
「ねえ、お母さん! 私、最近太ったかな!?」
たまらずリビングに駆け込み、準備をしていた母親にすがるような声をあげる。
「え? 急に何言ってるの、全然そんなことないよ。今のままで十分可愛いい、早く行かないと遅れちゃうよ」
「そんな適当な慰めが聞きたいんじゃないの! ちゃんと見てよ!」
「ちょっと楓、どうしたの急にピリピリして……」
母親の悪気のない言葉さえ、今の楓には「現実から目を背けさせようとしている」ようにしか聞こえなかった。
(お母さんは私の味方だからそう言うんだ。でも、他人の目は誤魔化せない。あのコメントを書いた人は、客観的に見て私が『太い』って思ったからわざわざ書いたんだ……!)
自室に戻り、鍵を閉める。
全身が冷たくなり、じっとりと嫌な汗が背中を伝った。
さっきまであんなに眩しく輝いて見えたお気に入りのコーディネートが、今は自分のみっともなさを強調する最悪の衣装に思えてくる。
(恥ずかしい。こんな体で、こんな太い足で、推しの前に立とうとしてたの? 触れ合おうとしてたの?
もし推しの目にも、私が『太い女の子』って映ったらどうしよう。口では『応援ありがとうございます』って笑顔で言ってくれても、心の中では『うわ、太いな』って幻滅されるかもしれない……)
そう考えた瞬間、胃のあたりがキリキリと痛み出し、猛烈な吐き気が楓を襲った。
胸が締め付けられて、うまく空気が吸えない。
指先が小刻みに震え、スマホを床に落としそうになる。
(みんなは『可愛い』って言ってくれた。でも、あれは友達としての『お世辞』だったの? 本当はみんなも私のこと、太いって笑ってたのかな。陽葵だって、隣に並んだら自分が引き立つから、私を褒めてたの……?)
悪意に満ちた、たった7文字の一言。
それが、楓がこれまで積み上げてきた努力も、自信も、友達への信頼さえも、一瞬で粉々に粉砕してしまった。
世界の中心にいたはずの少女は、今や冷たい画面の向こう側の、誰とも知らぬ悪意の奴隷になっていた。
クローゼットに映る自分の姿を見るのが怖くて、楓は両手で顔を覆い、ただその場にへたり込んで激しい息を繰り返すことしかできなかった。
