夜の風景

第4話 – 4ページ目:シャンデリアの下の夜会


夜 – ホテルの大広間


車が、ホテルのエントランスの前に静かに停まった。


ドアマンがドアを開ける。高い窓の向こうから、長いシャンデリアの光が溢れ出し、クラシック音楽が夜の空気に溶け込んでいた。


ミヤは、母と共に広間へと足を踏み入れた。


高い天井。白い柱。

オーキッドとクリスタルで飾られたテーブル。

すべてが、あまりにも豪華すぎた。


しかしミヤにとって――

そのどれも、彼女の心を掴むことはなかった。


彼女の視線は、人混みの中を彷徨っていた。

何かを探すように。自分自身でも、それが何なのかわからないまま。


スーツを着た男性たち。豪華なドレスを纏った女性たち。

彼らは、優雅に、しかしどこか機械的に言葉を交わしている。


母は、何人かの知り合いと会話を始めた。


ミヤは、静かにその場を離れた。


テーブルからグラスを手に取り、窓辺に立つ。


外では、黄色く色づいた葉が、風に舞い、石畳の庭を転がっていた。


彼女は、そっと呟いた。


「こんな場所、苦手。」

「みんな笑ってるのに、本当に笑ってる人は少ない。」


その時、背後から声が聞こえた。


「白鷺グループの後継者、今日来るらしいよ。」

「まだ若いんでしょ?」

「顔を見たことがある人、ほとんどいないらしい。」


ミヤは、無意識に振り返った。


白鷺グループ……


あの朝、学校で聞いた名前だった。


彼女の心臓が、静かに早鐘を打つ。


広間の大きな扉が、開かれた。


すべての視線が、その入り口へと向かう。


数人のスーツ姿の男性が入り、道を開ける。


その後ろから――

紺色のスーツを着た、一人の若い男性が、静かに歩いてきた。


シャンデリアの光が、彼の顔を照らす。

しかし、その距離では、はっきりと見ることはできなかった。


群衆は、敬意を持って道を譲る。


ミヤは、無意識に一歩前に出た。


何かが、彼女の心を掴んで離さなかった。


まるで――

この歩き方を、どこかで見たことがあるかのように。


しかし、彼の顔を見る間もなく、数人が彼女の視界を遮った。


若い男性は、群衆の中へと消えていった。


ミヤは、その入り口から視線を外せなかった。


冷たい風が、半開きのドアから広間へと流れ込む。


彼女は、思わず呟いた。


「……まさか。」


しかし、彼女の心は、まだ理性が認めることを拒んでいる何かを、静かに囁いていた。




続く…