夜の風景



第3話 – 16ページ目:誰も来なかった…ただ静けさがそこにあった


午後8時22分 – 隅田川ほとり


花火は午後8時30分に始まる予定だった。


ミヤは、柵のそばに立っていた。

青い浴衣は、祭りの灯りの下で、少しずつその色を失っていくように見えた。


小さなバッグをしっかりと握りしめている。スマホは、まだその手の中に。


彼女は、電話をかけた。


プルルル…プルルル…プルルル…


応答はなかった。


メッセージを送った。


「どこにいるの?」


既読 がついた。

しかし、返事はなかった。


ミヤは画面を消し、川を見つめた。

水面は、月明かりの下で、揺れる銀のようにきらめいていた。


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午後8時29分


あと一分。


群衆は興奮に包まれていた。子供たちは笑い、カップルたちは手をつないで立っている。


ミヤは――一人だった。


彼女は、もう一度電話をかけた。


プルルル…プルルル…プルルル…


何も聞こえない。


画面を閉じ、時計を見た。


午後8時30分。


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最初の一発が、空を裂いた。オレンジ色。


ミヤは、動かずにそれを見つめていた。


あの日、お台場の夕暮れのように――

しかし今は、誰も隣にいなかった。


二発目――緑色。

三発目――青色。


花火は次々と上がり、消えていった。


ミヤは見ていた。しかし、その音は遠くから聞こえてくるようだった。


涙はなかった。笑顔もなかった。


ただ、重い静けさだけがあった。


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午後9時15分 – 花火終了


群衆が、ゆっくりと散り始める。笑い声はまだ空気の中に残っていたが、ミヤにとっては、もう遠くへ行ってしまっていた。


ユカが、人混みの中から駆け寄ってきた。息を切らせて、興奮でいっぱいの顔で。


「ミヤ!すごかったね!」


ミヤは、小さく微笑んだ。


「うん…きれいだった。」


ユカは、少しだけ間を置いた。


「大丈夫?顔、疲れてるよ。」


「うん。ちょっとだけ。」


ユカは、彼女の手を取った。


「帰ろう。」


ミヤはうなずいた。


「ちょっとだけ…ここにいる。」


ユカは一瞬彼女を見つめ、それから静かに去っていった。


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ミヤは、一人取り残された。


夏の熱い風が吹いていたけれど、彼女には冷たく感じられた。


そして、そっと呟いた。


「…誰も来なかった。」


怒りではなく。

涙でもなく。


ただ、静かで、痛みを伴う、受け入れだった。


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同じ夜 – 街の彼方


イロは、ホールのドアを飛び出した。

ネクタイは緩み、呼吸は乱れていた。


コバタが、背後から叫ぶ。


「どこへ行くんですか!」


イロは振り返らずに言った。


「約束がある。」


コバタは彼を止めようとしたが、彼は走り出した。


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午後9時42分 – 川辺


彼がそこに着いたとき、すべては終わっていた。


灯りは次々と消えていた。群衆はもういなかった。

硝煙の匂いだけが、まだ空気の中に残っていた。


イロは立ち止まった。


彼の目は、あの場所を探していた。


ミヤが立っていた場所。

彼女が待っていた場所。


しかし、今は――そこに何もなかった。


彼の呼吸は、苦しかった。

疲れからではない。遅れてしまったことから。


そして、静かに言った。


「…遅かった。」


沈黙。


ただ、夜の音だけが聞こえていた。


そして、ほんの今、形を得た、ある重い感覚――

遅れるということが、単に「間に合わない」だけではないということ。

それは、「失う」ことでもあるのだと。