夜の風景




第1話 – 4ページ目:ミヤの家の夕食


夜が訪れ、ミヤの家の灯りがひとつまたひとつと点いていった。


渋谷の高級住宅街に建つその家は、高い窓から東京の夜景をまるで一枚の絵画のように切り取っていた。


ダイニングテーブルはダークウォールナット製。

白い器とクリスタルのグラスが整然と並べられ、シャンデリアの光が室内を穏やかに包み込んでいる。

壁面のスピーカーからは、ピアノの静かな調べが流れていた。


ミヤが席に着く。

部屋着に着替えていたが、その姿勢は変わらず——凛としていた。

背筋は伸び、肩は落ち着き、視線はまっすぐ前を向く。

まるで、家にいても鎧を脱ぐことを許さないかのようだった。


母——ショートヘアに洗練されたメイクの女性——が、小さな湯呑みに緑茶を注いだ。

唇に短い笑みを浮かべるが、その目は笑っていなかった。


「ミヤ、今日は学校どうだった?」


ミヤは顔を上げずに言った。


「普通よ。いつも通り。」


母は黙り込み、そっとスプーンを皿の脇に置いた。

一瞬何かを考えているようだったが、何も言わなかった。


父——家にいながらもスーツをまとう男——が、静かな声で言った。


「ミヤ…私たちは君を信頼している。」

「君はいつだって、自立していたからな。」


ミヤは顔を上げ、父の目をまっすぐに見つめた。

承認を求めるわけではない——それは、ただの習慣のように。


「わかってる。」


短い沈黙が部屋を満たした。

聞こえるのは、器に触れるスプーンの音と、ピアノの旋律だけ。


雨が、そっと窓を叩いていた。


家は広かった——

しかし、その静けさは、それよりもずっと広かった。



食後、ミヤはバルコニーに出た。


雨がまた降り始めていた。柔らかく、静かに。

彼女は傘を差さなかった。数粒の雨粒が髪に落ちるが、気にしない様子だった。


視線を、地平線へと向ける。


明るく輝く東京の高層ビル群は、ガラスと鋼鉄の森のようにそびえ立っている。

遠くを行き交う車のライトは、まるで蛍のように揺れていた。


冷たいバルコニーの手すりに手を置く。


「こんなにたくさんの人が…」


心の中で呟く。


「…どこへ向かっているんだろう。」


ふと、あのカフェが頭をよぎった。


あの灰色の瞳の青年。

あそこには——生きている匂いがあった。

コーヒーの香り。雨に濡れた木の匂い。雨音。


家の中に漂う香水とは違う、生の匂いだった。


無意識に、口元がわずかに緩んだ。

自分でも気づかないほど、短い、かすかな微笑みだった。


そして、室内へと戻り、バルコニーの扉を閉めた。


明日もまた、学校がある。

またあの視線たち。

またいつもの誇り。


でも——

心の奥底で、何かが変わっていた。

重くもない。

軽くもない。


まるで、新しい予感のように。

静かに、音もなく。