夜の風景

第3話 – 8ページ目:遅れたけど、心からの返事


午後11時23分 – イロの小さな部屋


街灯の光が薄いカーテンを透過し、木の枝の影が壁の上で静かに揺れていた。


イロはベッドの上に座っていた。背を壁に預け、両膝を抱えている。


ミヤの便箋を、もう一度開いていた。


そっと、声に出して読んだ。


「イロへ

夏祭り、一緒に行こう」


三度。

あるいは、それ以上。




彼はスマホを手に取った。


指が画面の上を何度も往復する。書き、消し、また書き。


そして、ただこう書いた。


「ミヤ」


間。


そのまま数秒、画面を見つめる。


それから、続けた。


「行く。一緒に行く。」


また、間。


何かがまだ足りない。


「でも、その前に話さないといけないことがある。」


数秒の沈黙。


指が、少しだけ震えた。


「今はまだ言えない。でも、約束する。あの夜、ちゃんと話す。」


間。


最後の一行。


「待っててくれる?」


送信。




同じ時刻 – ミヤの部屋


ミヤはベッドの上に座っていた。詩集が枕元に落ちている。


スマホが震えた。


画面が光る。 「イロ」


彼女は息を呑んだ。


メッセージを読んだ。


指が、少しだけ迷う。間違った返事をしてしまいそうで。


そして、書いた。


「待つ。ずっと待つ。」


間。


もう一言。


「それでいいよ。」


送信。



数秒後、返信が届く。


「うん。ありがとう。」



ミヤはスマホをそっと胸に押し当てた。


目が、柔らかく輝いた。


唇が、そっと動く。


「イロ…どれだけでも待つよ。」



同じ時 – イロの部屋


イロは天井を見つめていた。


スマホは、手の届くところに置かれている。


沈黙。


それから、とても静かに――独り言のように。


「わたしにはなにもない あなたでいつぱいだ…」


間。


「ふたつのせかいをとりかへし あなただけを…」


彼は目を閉じた。


そして、初めて――ただの考えではなく、決意がその目に宿った。