部外者の私ですら鼻がツンとなる。
その私の隣りで、同室らしいおじいさんは鼻をかんでいた。ちょっとやかましい。
「るつ、会いに来てくれたんだな……」
るつちゃんのお父さんは、るつちゃんを抱きしめて頭をなでる。
「私……もう心配で……」
ふと、お父さんの表情が気になった。
なんだか、嬉しそうなのに辛そうな……?
「るつ、聞いてくれ」
真剣なお父さんの声に、るつちゃんは涙を拭くと目をしっかりと合わせた。
「どうしたの? お父さん」
お父さんは口を開いては閉じてをくり返すと、決心したように声をしぼり出した。
「退院したら、もっと遠い街へ行かないといけなくなったんだ」
その瞬間。
この部屋の時間だけが止まったような気がした。
日差しは柔らかく、風は穏やかで、小鳥のさえずりも優しいのに。
なぜだか妙に寒々しかった。



