ミミのサバイバル日記~生き抜くために日記を使う 敵はママ!

学校の帰り道。

 ランドセルを揺らしながら、
 リコちゃんが弾む声で言った。

「今日はね、リコの誕生日なの!」

 くるっと振り返る。

 うれしそうな顔。

「回るお寿司に行きたいって言ったら、行くことになったんだ~!」

 両手を広げる。

「楽しみ~!」

「ええ?」

 思わず声が出た。

「いいなあ……!」

 本当に、
 うらやましかった。

「回るお寿司、行ったことないよ」

「えっ!」

 リコちゃんが止まる。

「ミミちゃん、一回も?」

「うん」

 私は肩をすくめた。

「ママが外食、好きじゃないんだ」

「ヘルシーライフだから?」

「そう」

 リコちゃんが笑う。

「ミミちゃんちってすごいよね~」

「無添加でしょ?」
「オーガニックでしょ?」
「おやつも健康系!」

「うん……」

 なんだろう。

 その言い方。

 ちょっと憧れてる感じ。

 でも。

 ぜんぜん違う。

「夕ごはんも全部、
 ママがヘルシーメニューで作るの」

「いいじゃない!」

 リコちゃんが、
 ぱっと笑った。

「やさしいママ! いいね」




「……よくないよ」

 
 ぽろっと本音が出た。

「え?」

「わたしだって」

 小石をける。

「回るお寿司、行ってみたい」

 言ったあと、
 ちょっと後悔した。

 こんなこと言ったら、
 わがままだと思われるかな。

 でも。

 リコちゃんは不思議そうな顔をした。

「でも……」

 

「ミミちゃんだってママのこと好きでしょ?」

「えっ?」

 思わず足が止まる。

 好き?

 ママを?

「リコはね」

 リコちゃんが、
 にこっと笑う。

「リコね、ママがだーい好き!」

 大きく手を広げる。

「一生一緒に暮らしたいもん!」

「大人になっても!」

 …………。

 え。

 えええ?!

 本気?

 本気で言ってる?

 この世に。

《ママが好き》

 って人がいるの?

 私は、
 本気でびっくりした。

 頭の中が、
 一瞬止まる。

 そんな人、いるんだ。
 仲良し家族って、テレビの中だけだと思ってた。

 だって。

 ママって――。

 どこの家でも、怖い人なんじゃじゃないの?

 黙って、
 小石をける。

 ころころ転がる。

 その音だけ聞いていた。



 ――私は、
 はっきり言ってママが嫌い。

 家の食卓に並ぶのは、
 無農薬の雑穀米。

 無農薬野菜。

 天然物の小魚。

 お菓子はほとんどない。

 ジュースもない。

 テレビもない。

 ゲームもない。

 漫画もない。

 その代わり。

 図書館で山ほど借りた本。

『勉強が終わったら読みなさい』

 って、
 積み上げられる。

 友達がゲームの話をしても、
 テレビの話をしても、
 漫画の話をしても。

 わたしだけ、
 入れない。

 話についていけない。

 そのつらさを、
 ママはぜんぜんわかってない。

 しかも。

 10歳の誕生日プレゼントが、
 日記帳だなんて!

 ……普通は
 ゲームソフトとかじゃない?

 少なくとも、
 わたしの周りはそう。

 


 パパは仕事で、ミミが起きている時間には帰ってこない。

 そして、朝にはもういない。

 そしてまた、夜もいない。

 学校から帰って、
 次の日の朝に学校へ行くまで――。

 わたしはずっと、
 ママの支配下にいる。

 でも。

 リコちゃんに言っても、
 きっと分からない。

 だって。

 リコちゃんは、
 本当にママが好きだから。

【日記】7月1日 くもり

 今日はリコちゃんと話した。

 リコちゃんは今日が誕生日。

 ママたちは、
 同じ産院だったらしい。

 一日違いで生まれた私たちが、
 仲良しになるよう願っていたんだって。

 その願い通り、
 私とリコちゃんは親友になった。

 リコちゃんは、
 回るお寿司でお祝いしてもらうらしい。

 ……いいなあ。

 ミミも、
 行ってみたいな。

 ママと一緒に。