私が拾ったのは、千年前の皇子様でした

昼休憩になり、オフィスから人が減っていく。

結奈ちゃんにランチに誘われたけれど、
なんだか余計なことを考えてしまいそうで、
「仕事が溜まってるから」と断った。

昼休憩に入っても私はずっと、作業を続けていた。

カタン。

小さな音がして顔を上げる。

いつの間にか、
私のデスクには缶コーヒーが置かれていた。

「あんまり、無理するなよ」

後ろから、聞き覚えのある声がする。

振り返ると、そこには一ノ瀬部長が立っていた。

「い、一ノ瀬部長!」

驚きのあまり立ち上がってしまった。

「何も、そんなに驚くことないだろ」

そんな私を見て、部長は少し笑った。

「突然、後ろから声がしたら、誰だって驚きます」

「そうか。すまなかった」

奈良のホテルの庭でも、こんな会話をした気がする。

私は少し面白くなって、クスッと笑ってしまった。

その瞬間だった。

「やっと笑ったな」

「え?」

「いや、今日の高瀬は何か思い詰めているようだったからな」

「そうですか?」

「ああ。ずっと怖い顔をしていたぞ。こんな風に」

そう言って、部長は眉をひそめ、ムッと怖い顔をして見せた。

「私、そんな顔はしないです」

「そうか?俺にはそう見えたぞ」

「もう!」

そんな私を見て、部長はさらに笑顔になる。

その笑顔は優しくて、温かかった。

「高瀬」

「はい?」

気がつくと、部長は真剣な面持ちで、
こちらを見ていた。

「何か悩み事があるなら、俺でよければ話くらい聞くからな」

部長のその言葉は、上司としてではなく、
一人の大人として私に向けられたもののように感じた。

「すみません」

「謝ることじゃない。一人で抱え込むなよ」

「……ありがとうございます」

結奈ちゃんも部長も優しすぎる。

なんでそんなに、私のことを心配してくれるんだろう。

「高瀬、今日は早めに帰るといい」

そう言うと、部長はどこかへ行ってしまった。

すると、突然ドタドタとこちらに向かってくる、
大きな足音が聞こえてきた。

「せんぱ〜い、部長となに話してたんですか?」

そこにはニヤニヤしながら、私を見つめる、
結奈ちゃんの姿があった。

「へ?」

「なんですか、その反応。なんかあったんですか?」

さらに、結奈ちゃんは嬉しそうな顔をする。

「何もないよ」

結奈ちゃんは何か期待しているようだけど、
本当に何もなかった。

でも、結奈ちゃんも一ノ瀬部長も、
私のことを気にかけてくれることは、
私にとって救いになっていた。

結奈ちゃんはショボンとして、
自分の椅子に座った。

「ふっ」

その姿が、子犬のようで思わず笑ってしまった。

「先輩、何笑ってるんですか」

「なんでもないよ」

「じゃあ、なんで笑ってるんですか!」

「なんでもないって!」

そうこうしているうちに、昼休憩が終わった。

私はまたパソコンに向かった。

キーボードを打つ音が、さっきよりも軽く聞こえる。

ほんの少しだけ。

心が軽くなった気がした。