その日の夜。
私はまた、夢を見た。
冷たい風が吹いている。
空は暗く、どこか重たい空気が漂っていた。
私は、長い廊下を走っていた。
足音が響く。
苦しい。
胸が痛い。
『兄上……!』
気づけば、私はそう叫んでいた。
すると、前の方に人影が見える。
白い衣。
長い黒髪。
木梨軽皇子だった。
彼は何人もの男たちに囲まれている。
『おやめください!』
私は必死に声を上げる。
けれど誰も止まらない。
冷たい視線。
責めるような声。
『許されぬ関係だ』
『皇族の恥』
『伊予へ流せ』
そんな言葉が、
何度も耳に突き刺さる。
私は必死に、
木梨軽皇子へ手を伸ばした。
けれど、
あと少し届かない。
『軽大娘』
彼が、悲しそうに私の名を呼ぶ。
その顔を見た瞬間、胸が締め付けられた。
『兄上を連れて行かないで……!』
私は泣きながら叫ぶ。
すると、
木梨軽皇子は静かに笑った。
苦しそうなのに、
どこまでも優しい笑顔だった。
『泣くでない』
彼はそう言って、そっと私へ手を伸ばす。
あと少し。
あと少しで、触れられる。
――その瞬間だった。
誰かに腕を掴まれる。
『軽大娘皇女!』
世界が揺れる。
景色が歪む。
そして最後に見えたのは――
涙を流しながら、
こちらを見つめる木梨軽皇子の姿だった。
「っ……!」
目が覚める。
息が苦しい。
頬には、涙が流れていた。
胸の奥が、痛いほど苦しい。
まるで本当に、
大切な人を失ったみたいに。

