私が拾ったのは、千年前の皇子でした

その日の夜。

私は再び、夢を見た。

風が吹いている。

長い黒髪が揺れ、
衣の袖が、ふわりと舞った。

目の前には、穏やかな笑みを浮かべる男。

――悠真。

いや、違う。

木梨軽皇子。

夢の中の私は、それを自然に理解していた。

場所は、どこかの庭のようだった。

大きな木々に囲まれ、
遠くでは鳥の鳴き声が聞こえる。

月明かりが、静かに地面を照らしていた。

『軽大娘』

彼は優しく、私の名を呼ぶ。

その声を聞くだけで、胸が苦しくなる。

『なぜ、そんな顔をしている』

『……怖いのです』

気づけば、
私はそう答えていた。

『何が怖い』

『兄上が、遠くへ行ってしまいそうで』

その瞬間、
木梨軽皇子は目を見開いた。

まるで、
その言葉が何よりも嬉しかったかのように。

彼は静かに私の頬へ触れる。

『我は、そなたを置いて消えたりせぬ』

優しい声。

温かい手。

胸が締め付けられる。

苦しいのに、離れたくない。

すると突然、
遠くの方から誰かの声が聞こえた。

『許されぬ――!』

空気が変わる。

何人もの人影。

冷たい視線。

責めるような声。

木梨軽皇子は、
咄嗟に私を庇うように抱き寄せた。

『軽大娘!』

その声と同時に、
世界が揺れる。

――目が覚めた。

息が苦しい。

頬には、
涙が流れていた。

そして胸の奥が、
痛いほど熱かった。