私たちは散策を終え、家へ戻った。
帰る頃には、空は茜色から群青色へと変わり始めていた。
母は台所で夕食の支度をしている。
父はもう日本酒を飲み始めていた。
「大晦日とは、何をするのだ?」
悠真が小さな声で耳打ちしてくる。
「年を越す前にみんなでご飯を食べて、テレビを見たり、年越しそばを食べたりするかな」
「ほう」
私自身も家族で過ごす大晦日なんて久しぶりだった。
正直、昔どんな風に過ごしていたのか、あまり覚えていない。
夕食の準備が整い、
私たちは家族みんなで食卓を囲んだ。
他愛もない話をしながら食事をしていると、
祖母が懐かしそうに口を開いた。
「そういえば、今日みたいな満月の大晦日に、千紘が突然いなくなったことがあったねぇ」
「あった、あった」
母も思い出したように頷く。
「そんなことあったっけ?」
私は首を傾げた。
全く覚えていない。
「そうよ」
母は笑いながら続ける。
「家族みんなで探したのよ」
「朝方になって、ようやく見つかったんだから」
「どこで?」
自然と声が漏れた。
母と祖母は顔を見合わせる。
そして静かに答えた。
「軽之神社」
その名前を聞いた瞬間、胸がドクンと大きく鳴った。
「その時ね」
祖母は私を見つめる。
「あなた、不思議なことを言ってたのよ」
「不思議なこと?」
「『綺麗な女の人とお話ししてた』って」
その言葉に、部屋の空気が静まり返る。
「綺麗な……女の人」
どこかで聞いた。
あの神社で聞こえた、あの声。
――千紘。
あれは。
あの人だったのだろうか。
「千紘」
悠真が心配そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「え?」
気づくと、私は箸を持ったまま固まっていた。
「う、うん」
私は無理に笑顔を作る。
「なんでもない」
そう答えた。
でも。
胸の奥がざわつく。
思い出せそうなのに、思い出せない。
いや――
思い出してはいけない。
そんな気がしてならなかった。
もし思い出してしまえば、
今の穏やかな毎日が終わってしまう。
そして――
悠真が、私の前からいなくなってしまう気がした。
帰る頃には、空は茜色から群青色へと変わり始めていた。
母は台所で夕食の支度をしている。
父はもう日本酒を飲み始めていた。
「大晦日とは、何をするのだ?」
悠真が小さな声で耳打ちしてくる。
「年を越す前にみんなでご飯を食べて、テレビを見たり、年越しそばを食べたりするかな」
「ほう」
私自身も家族で過ごす大晦日なんて久しぶりだった。
正直、昔どんな風に過ごしていたのか、あまり覚えていない。
夕食の準備が整い、
私たちは家族みんなで食卓を囲んだ。
他愛もない話をしながら食事をしていると、
祖母が懐かしそうに口を開いた。
「そういえば、今日みたいな満月の大晦日に、千紘が突然いなくなったことがあったねぇ」
「あった、あった」
母も思い出したように頷く。
「そんなことあったっけ?」
私は首を傾げた。
全く覚えていない。
「そうよ」
母は笑いながら続ける。
「家族みんなで探したのよ」
「朝方になって、ようやく見つかったんだから」
「どこで?」
自然と声が漏れた。
母と祖母は顔を見合わせる。
そして静かに答えた。
「軽之神社」
その名前を聞いた瞬間、胸がドクンと大きく鳴った。
「その時ね」
祖母は私を見つめる。
「あなた、不思議なことを言ってたのよ」
「不思議なこと?」
「『綺麗な女の人とお話ししてた』って」
その言葉に、部屋の空気が静まり返る。
「綺麗な……女の人」
どこかで聞いた。
あの神社で聞こえた、あの声。
――千紘。
あれは。
あの人だったのだろうか。
「千紘」
悠真が心配そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「え?」
気づくと、私は箸を持ったまま固まっていた。
「う、うん」
私は無理に笑顔を作る。
「なんでもない」
そう答えた。
でも。
胸の奥がざわつく。
思い出せそうなのに、思い出せない。
いや――
思い出してはいけない。
そんな気がしてならなかった。
もし思い出してしまえば、
今の穏やかな毎日が終わってしまう。
そして――
悠真が、私の前からいなくなってしまう気がした。

