とりあえず、この男のことを知らなければ、
なにも始まらない。
私は男から、昨日までのいきさつを聞くことにした。
そして男は、ゆっくりと話始めた。
「我は、允恭天皇の皇子として生まれた」
男――木梨軽皇子は、
静かにそう語り始めた。
「次の帝になる者だと、周囲から期待されていた」
と彼は少し寂しそうに笑う。
「我は、妹である軽大娘を愛してしまったのだ」
その関係は宮中で問題となり、
やがて多くの者から非難されたらしい。
さらに皇位継承争いにも敗れ、
木梨軽皇子は伊予国へ流されることになった。
「……本来ならば、あやつまで来る必要はなかった」
そう言いながら、彼はどこか遠くを見る。
「だが、軽大娘は、我を追って伊予まで来たのだ」
その声は、
嬉しそうでもあり、
苦しそうでもあった。
「そして我らは、最期まで共にいることを選んだ」
そう語る木梨軽皇子の瞳は、
今にも泣き出しそうなほど、
静かに揺れていた。

