夜風にさらわれたお姫様


しばらくして。


車が大きな門の前で止まる。

「……え」

榴愛は目を見開いた。


巨大な和風屋敷。

まるで映画みたいだった。

門が開く。

車が中へ進む。

「ここ……」

「白鴉組本部」

さらっと言われた。

いやいやいや。

本部!?

榴愛の頭が混乱する。


車を降りると、組員らしき男たちが頭を下げた。

「煌夜さん」

「おかえりなさい」

完全に別世界だった。

榴愛は思わず煌夜の服の裾を掴む。

「……怖いか」

「ちょっと……」

「安心しろ」

煌夜は榴愛の頭を軽く撫でた。

「お前に手ぇ出す奴はいない」

その言葉に、少しだけ緊張が解けた。


屋敷の中へ入る。

広間には何人もの人がいた。

「煌夜さん帰っ――」

「あれ、女の子?」

「珍し」

ざわつく空気。

榴愛は縮こまる。


すると。

「……榴愛?」

聞き覚えのある声がした。

榴愛は目を見開く。

「……え、みお?」


そこに立っていたのは。

湊森心桜(みなともりみお)だった。


「えええええ!?」

榴愛は叫んだ。

心桜も同じ顔をしている。

「なんで!?」

「それこっち!!」

二人は同時に駆け寄った。

「みお!?!?」

「榴愛!?!?!?」

「なんでここいるの!?」

「だからそれはこっちの台詞!!」

ぎゅうっと抱き合う。


広間が静まり返った。

煌夜が目を瞬かせる。

「……知り合い?」

「親友!!」

榴愛と心桜が同時に答えた。

「……は?」

珍しく煌夜が固まる。

依吹(いぶき)が眼鏡を押し上げながら笑った。

「これは予想外ですね」

「煌夜、お前知らなかったのか?」

駿(しゅん)が笑う。

煌夜は榴愛と心桜を見比べた。

「マジか……」

その呟きに、周囲もざわつく。


心桜とは高校の時からの親友。
卒業して以来会えてなかったんだ。


心桜が榴愛の肩を掴んだ。

「ちょっと待って!? なんで煌夜と一緒なの!?」

「襲われて……助けてもらって……」

「誰に?」

「黒崎組」

空気が変わった。

一瞬で広間の温度が下がる。

煌夜の目が細くなる。

「……やっぱり黒崎か」

依吹が静かに口を開く。

「榴愛さん、顔見られました?」

「え、はい……」

「なら危険ですね」

榴愛は息を呑む。

「え……?」

心桜が真剣な顔になる。

「榴愛。もう表の生活には戻れないかもしれない」

「……っ」

現実感がなかった。

ただバイト帰りだっただけなのに。

なんでこんなことに。


すると。

煌夜が榴愛の前に立った。

「安心しろ」

低い声。

でも不思議と安心する。

「俺が守る」


その瞬間。

胸が大きく鳴った。

知らない世界。

危険な人。

怖いはずなのに。


どうしてだろう。

この人の傍だけは――。

安全だと思ってしまった。


外では夜風が吹いていた。

そして夜坂街では。


静かに、“裏の世界”が動き始めていた。