夜風にさらわれたお姫様


数分後。


黒い高級車が止まった。

運転席から降りてきた男が頭を下げる。

「煌夜さん」

「屋敷戻る」

「……そちらの方は?」

「連れてく」

「承知しました」


え。

連れてく⋯⋯?


「ちょ、ちょっと待ってください!」

榴愛は慌てた。

「わ、私帰ります!」

「また襲われたいなら止めねぇけど」

「……っ」

「黒崎組は執念深い」

煌夜は榴愛を見下ろした。

「一回目ぇ付けられたなら終わりだ」

ぞくり、とした。

冗談ではない。

この人、本気で言っている。

「……少しだけ」

「ん?」

「少しだけなら、お世話になります……」


すると。

煌夜は小さく笑った。

「いい子」

「っ……!」

心臓が跳ねた。

なんなの、この人。


車に乗り込む。

中は静かだった。

運転手――透が前を向いたまま口を開く。

「珍しいですね」

「あ?」

「女性を連れて帰るなんて」

「……うるせぇ」

煌夜が少しだけ不機嫌そうになる。


榴愛は窓の外を見た。

夜坂街のネオンが流れていく。

不安だった。

でも。

なぜか。

少しだけ安心もしていた。