夜風にさらわれたお姫様


静寂。


榴愛はその場に立ち尽くしていた。

怖かった。

でも。

目の前の男も十分怖い。


「……怪我は」

「え?」

「してないかって聞いてる」

「あ、はい……」

男は榴愛をじっと見た。

鋭い目。

けれど、どこか綺麗だった。

「お前、表の人間だろ」

「……はい」

「こんな時間に一人歩きするな」

「すみません……」

なぜか怒られている気分になり、榴愛はしゅんと肩を落とした。


すると。

男が小さく笑った。

「素直だな」

「……え?」

「普通、泣き叫ぶか逃げる」

「……」

確かに怖かった。

でも。

この人は助けてくれた。

「ありがとうございました」

榴愛が頭を下げると、男は少し目を細めた。


「名前」

「……姫野榴愛(ひめのるあ)です」

「榴愛」

その人は、名前を確かめるように呟いた。

「俺は白城煌夜(しらきこうや)だ」

白城煌夜。

その名前を聞いた瞬間。

さっきの男たちの怯えた顔を思い出す。

この人――。

相当ヤバい人なんじゃ。

「……帰るぞ」

「え?」

「送る」

「だ、大丈夫です!」

「大丈夫じゃないから絡まれてたんだろ」

ぐうの音も出なかった。


煌夜はため息を吐く。

「お前家は?」

「……一人暮らしです」

「ならなおさら危ねぇな」

「……」


この人。

怖いのに。

なんでこんなに普通に心配するんだろう。


煌夜はスマホを取り出した。

「透(とおる)」

『はい』

「車回せ」

『了解です』

短い通話を終える。