夜風にさらわれたお姫様


その時だった。


「――その手、離せ」

低い声が響いた。

空気が変わる。

男たちの表情が一瞬で強張った。

榴愛が顔を上げる。


そこには。
黒いロングコートを羽織った男が立っていた。

月明かりに照らされた銀髪。

鋭い目。

圧倒的な存在感。

男たちは顔色を変えた。


「し、白城……!」

「なんでここに……」


榴愛は息を呑む。

その男はゆっくりこちらへ歩いてきた。

コツ、コツ、と足音が響く。

怖い。

なのに。

なぜか目が離せなかった。


「黒崎組の下っ端が、随分好き勝手してるな」

静かな声。

でも、その声には圧があった。

男たちは怯えたように後退する。

「ち、違ぇよ! 俺らただ――」

「三秒やる」

「……は?」

「消えろ」

ゾッとした。

感情がない。

怒鳴っているわけでもないのに、恐ろしい。

男たちは顔を見合わせると、慌てて逃げていった。

バイク音が遠ざかる。