夜風にさらわれたお姫様


夜坂街の裏路地。


ネオンの明かりが薄暗いアスファルトを照らしている。

人通りは少ない。
というより、ほとんどない。

「近道しなきゃよかったかな……」

榴愛は小さく呟いた。

この道は昼なら平気だ。

でも夜になると空気が変わる。

妙に静かで。

誰かに見られているような感覚がある。

カツ、カツ、とヒールの音だけが響く。


すると。


「ねーちゃん」

「っ!?」

突然、後ろから声を掛けられた。

振り返ると、数人の男が立っていた。

金髪。
ピアス。
黒いジャケット。

一目で“危ない人たち”だと分かる。


「こんな時間に一人?」

「かわいーじゃん」

「遊んでこうぜ」

ニヤニヤ笑いながら近付いてくる。

榴愛は一歩後退した。

「……急いでるんで」

「いいじゃん別に」

「怖がんなって」

怖い。

本能がそう叫んでいた。

逃げなきゃ。

そう思って踵を返した瞬間――。


グイッ。

「きゃっ……!」

腕を掴まれた。

「逃げんなよ」

「離してください……!」

「なぁ、俺ら黒崎組なんだけど?」

「……!」


黒崎組。

その名前を聞いた瞬間、背筋が凍った。

聞いたことがある。

夜坂街で有名な危険組織。

確か――。

「表の女って新鮮でいいよなぁ?」

「っ……!」

榴愛の腕を掴む力が強くなる。

痛い。

怖い。

涙が滲みそうになる。