トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

昼過ぎ

黒瀬さんが言っていた資料が届いた

分厚いPDFファイル

全部で三十ページ近くある

記者会見想定問答集

事務所法務部監修

そんな文字が表紙に並んでいた

俺たちはダイニングテーブルを囲む

まるで受験勉強みたいだった

違うのは間違えた時に失うものの大きさだ

俺は資料を開く

最初のページ



【質問】

「ホテルへ入る写真が撮られていますが事実ですか?」

【回答】

「ホテルへ入った事実はありますしかし記事に書かれているような行為は一切ありません」



次のページ



【質問】

「なぜホテルへ行ったのですか?」

【回答】

「相手女性からDV被害の相談を受けておりました安全確保を優先した結果です」



さらにページをめくる



【質問】

「交際関係だったのでは?」

【回答】

「交際の事実はありません」



【質問】

「肉体関係は?」

【回答】

「ありません」



【質問】

「記事内容は事実無根という認識ですか?」

【回答】

「はいその認識です」



淡々と並ぶ文章

でもその一つ一つが黒騎士の未来を左右する

奏は黙ったまま資料を読んでいた

途中で手が止まる

何度も

何度も

きっと

あの日のことを思い出しているのだろう

優朔が隣から声をかける

「大丈夫か」

奏は小さく頷く

「……大丈夫っす」

全然大丈夫そうじゃない

俺は資料を閉じた

「一回練習しよう」

三人が顔を上げる

「記者役やる」

そう言って立ち上がる

実際の会見で頭が真っ白になる方が怖い

今のうちに慣れておいた方がいい

「じゃあまず奏」

「はい」

緊張した声

俺は資料を見る

そして読み上げた

「桜庭さん、記事によると女性は同意していなかったと証言していますどうお考えですか?」

リビングの空気が一気に張り詰める

奏の顔色が少し変わる

昨日までならここで呼吸が乱れていたかもしれない

でも今日は違った

奏は一度息を吸う

そして

「記事内容は事実ではありません」

ゆっくり答えた

「そのような行為は一切していません」

少し声が震えている

でもちゃんと前を向いていた

「もう一回」

俺は言う

「次」

何度も

何度も

同じ質問を繰り返す

途中

蒼依が記者役を担当する

優朔が記者役を担当する

わざと厳しい聞き方もする

「なぜ女性は嘘をつくんですか?」

「証拠はありますか?」

「人気アイドルだから隠したいだけでは?」

聞いているだけで胃が痛くなる質問

それでも明日はもっと酷い

だから慣れなきゃいけない

奏の額には汗が浮かんでいた

でも逃げなかった

一つ一つ答えていく

何度も言葉に詰まりながら

それでも最後まで席を立たなかった

夕方になる頃には全員かなり疲れていた

資料は何度も読み返した

回答も頭に入れた

それでも不安は消えない

消えるはずがない

明日のこの時間には

もう全国へ向けて会見が終わっているのだから

俺は窓の外を見る

少しずつ夕焼けに染まる空

その横で奏は再び資料を開いていた

ページの端は何度もめくったせいで少し折れている

必死なのだ

怖いはずなのに

逃げたいはずなのに

それでも黒騎士のために

自分のために

戦おうとしている

俺はそんな奏を見ながら思った

どうか

明日だけは

無事に終わってくれ

ただそれだけを願っていた