トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

陽貴side

朝8時

リビングには久しぶりに人の気配が戻っていた

とはいえいつもの賑やかさとは程遠い

誰もがどこか緊張していて

スマホが鳴るたびに空気が張り詰める

そんな朝だった

俺はコーヒーを片手に時計を見る

昨夜は結局ほとんど眠れなかった

途中何度か奏の様子を見に行ったし

黒瀬さんから来るかもしれない連絡も気になっていた

それでも朝になって少しだけ救われたことがある

奏が起きてきたことだ

朝7時頃

寝室のドアが開いて

「おはようございます……」

掠れた声で出てきた奏は、まだ本調子には程遠かった

でも昨日とは違った

顔色が少しだけ良くなっていた

目の焦点も合っている

呼吸も落ち着いている

点滴と解熱剤が効いたようだ

そして何より眠れたことが大きかったのだろう

熱も37.0℃まで下がっていた

昨日39℃を超えていたことを思えば大きな進歩だった

もちろん精神的な問題は何一つ解決していない

それでも身体が回復するだけで人は少し前を向ける

それを俺は何度も見てきた

そして朝6時

紗凪はいつも通り起きていた

昨日もあまり寝れていないはずなのに

この体力はどこからくるんだ

そう思うくらい自然な顔でキッチンに立っていた

「おはよう」

そう言って笑いながら俺たちの朝食を作り始めていた

今テーブルに並んでいるのは

卵焼き

焼き鮭

味噌汁

サラダ

そしてお粥

奏用だけ少し内容が違う

消化しやすいように考えたのだろう

そんな細かい気遣いができるところが紗凪らしい

「食べれる?」

紗凪が聞く

奏は少し迷ってから頷いた

「……少しなら」

昨日より声も出ている

紗凪がほっとしたように笑った

「じゃあ無理しない程度にね」

奏はお粥を一口食べる

そして

二口

三口

昨日なら数口で終わっていたはずなのに

今日は半分近く食べていた

その姿を見て俺も少しだけ安心する

すると

インターホンが鳴った

ピンポーン

全員の動きが止まる

一瞬だけ空気が張り詰めた

すぐに優朔だと気付く

「俺出る」

俺は立ち上がった

玄関へ向かう

ドアを開けると

予想通り優朔と蒼依が立っていた

二人とも昨日よりさらに疲れた顔をしている

きっとまともに寝ていない

「おはよう」

俺が言うと

優朔は小さく頷く

「おはよう」

蒼依も苦笑した

「みんな顔色わるっ」

その言葉に誰も否定できなかった

俺たちは再びリビングへ戻る

奏を見る二人の視線

昨日より顔色がいいことに気付いたのだろう

優朔が少しだけ安心したように息を吐いた

「熱は?」

「37.0」

俺が答える

「よかった……」

その一言に

どれだけ心配していたかが滲んでいた

優朔は奏の前へ行く

そして何も言わずに頭をぐしゃっと撫でた

奏が少し嫌そうな顔をする

「髪崩れるんでやめてください」

「その元気あるなら大丈夫だな」

優朔が言う

その瞬間

リビングに小さな笑いが生まれた

本当に小さなものだったけど

昨日から初めてだったかもしれない

みんなが少しだけ笑えたのは

だけどその空気は長く続かなかった

テーブルの上に置かれたスマホが震える

ブーブー……

俺のスマホだ

画面を見る

表示された名前を見た瞬間

全員の表情が変わる

――黒瀬さん

ついに来た

俺は一度深呼吸をしてから

通話ボタンを押した