しばらくの間
私たちは何も話さなかった
奏くんは私の肩へ額を預けたまま静かに呼吸を繰り返している
さっきまでみたいな過呼吸はない
肩の震えも少しずつ落ち着いてきていた
私は背中を優しく撫で続ける
子どもを寝かしつけるみたいに
ゆっくり
ゆっくり
すると奏くんが小さく息を吐いた
「……すみません」
掠れた声
「何が?」
「なんか……」
少し自嘲気味に笑う
「俺、めちゃくちゃダサいっすね」
その言葉に胸が痛くなる
私は首を横に振った
「全然」
「ダサくないよ」
奏くんは何も言わない
でも少しだけ肩の力が抜けた気がした
そんな時だった
ガチャ——
再び静かな部屋に音が響く
私は反射的に顔を上げた
自室のドアが開く
そして
眠そうに目を擦りながら出てきた人影に思わず少し笑ってしまう
「陽貴くん」
陽貴くんだった
寝起きなのだろう
髪は少し乱れていて
Tシャツ姿のまま
私たちを見るなり、その表情が変わった
まず奏くんを見る
次に私を見る
それから状況を理解したらしい
少しだけ目を見開いた
「……奏」
掠れた声
奏くんが振り返る
二人の視線がぶつかる
昼間からずっと避けていたみたいに
少しだけ気まずそうに
でも陽貴くんは何も言わなかった
責めもしない
焦りもしない
ただ本当に自然な声で言う
「起きたのか」
その声は驚くほど優しかった
奏くんが小さく頷く
「……はい」
陽貴くんはそのまま近付いてくる
そして奏くんの前へしゃがみ込んだ
目線を合わせるように
「体調は?」
まるで兄が弟を心配するみたいな声だった
奏くんは少し戸惑ったように視線を逸らす
「……大丈夫っす」
でも
その顔色を見れば嘘だと分かる
陽貴くんも分かっていた
案の定
「嘘つけ」
小さく笑う
「顔真っ赤じゃん」
奏くんが気まずそうに俯く
「……すみません」
その瞬間
陽貴くんの表情が少し曇った
「なんで謝るんだよ」
静かな声
奏くんが顔を上げる
陽貴くんは真っ直ぐ見ていた
「今日何回目?」
「え?」
「謝るの」
奏くんが言葉に詰まる
陽貴くんは続ける
「お前が苦しい時くらい」
「謝るのやめろ」
その言葉に奏くんの目がまた揺れた
泣きそうになるのを堪えているのが分かる
陽貴くんはそんな奏くんの頭をぽんっと軽く叩いた
「今は病人だろ」
「余計なこと考えんな」
少しだけ乱暴な言い方
でもそこにある優しさは誰より大きい
奏くんが唇を噛む
「……でも」
「俺のせいで」
言いかけた瞬間
陽貴くんが遮った
「その話は明日な」
有無を言わせない声だった
リーダーの声
でも怒っているわけじゃない
「今は休め」
「それが仕事」
奏くんが呆然と陽貴くんを見る
そしてほんの少しだけ
本当に少しだけ
口元が緩んだ
「……なんすかそれ」
「命令」
「横暴っす」
「知ってる」
そんなやり取りに
私は思わず笑ってしまった
久しぶりだった
黒騎士らしい空気が戻った気がした
たとえ少しだけでも
たとえ一瞬でも
今の奏くんに必要なのは
きっとこういう時間なのかもしれなかった
私たちは何も話さなかった
奏くんは私の肩へ額を預けたまま静かに呼吸を繰り返している
さっきまでみたいな過呼吸はない
肩の震えも少しずつ落ち着いてきていた
私は背中を優しく撫で続ける
子どもを寝かしつけるみたいに
ゆっくり
ゆっくり
すると奏くんが小さく息を吐いた
「……すみません」
掠れた声
「何が?」
「なんか……」
少し自嘲気味に笑う
「俺、めちゃくちゃダサいっすね」
その言葉に胸が痛くなる
私は首を横に振った
「全然」
「ダサくないよ」
奏くんは何も言わない
でも少しだけ肩の力が抜けた気がした
そんな時だった
ガチャ——
再び静かな部屋に音が響く
私は反射的に顔を上げた
自室のドアが開く
そして
眠そうに目を擦りながら出てきた人影に思わず少し笑ってしまう
「陽貴くん」
陽貴くんだった
寝起きなのだろう
髪は少し乱れていて
Tシャツ姿のまま
私たちを見るなり、その表情が変わった
まず奏くんを見る
次に私を見る
それから状況を理解したらしい
少しだけ目を見開いた
「……奏」
掠れた声
奏くんが振り返る
二人の視線がぶつかる
昼間からずっと避けていたみたいに
少しだけ気まずそうに
でも陽貴くんは何も言わなかった
責めもしない
焦りもしない
ただ本当に自然な声で言う
「起きたのか」
その声は驚くほど優しかった
奏くんが小さく頷く
「……はい」
陽貴くんはそのまま近付いてくる
そして奏くんの前へしゃがみ込んだ
目線を合わせるように
「体調は?」
まるで兄が弟を心配するみたいな声だった
奏くんは少し戸惑ったように視線を逸らす
「……大丈夫っす」
でも
その顔色を見れば嘘だと分かる
陽貴くんも分かっていた
案の定
「嘘つけ」
小さく笑う
「顔真っ赤じゃん」
奏くんが気まずそうに俯く
「……すみません」
その瞬間
陽貴くんの表情が少し曇った
「なんで謝るんだよ」
静かな声
奏くんが顔を上げる
陽貴くんは真っ直ぐ見ていた
「今日何回目?」
「え?」
「謝るの」
奏くんが言葉に詰まる
陽貴くんは続ける
「お前が苦しい時くらい」
「謝るのやめろ」
その言葉に奏くんの目がまた揺れた
泣きそうになるのを堪えているのが分かる
陽貴くんはそんな奏くんの頭をぽんっと軽く叩いた
「今は病人だろ」
「余計なこと考えんな」
少しだけ乱暴な言い方
でもそこにある優しさは誰より大きい
奏くんが唇を噛む
「……でも」
「俺のせいで」
言いかけた瞬間
陽貴くんが遮った
「その話は明日な」
有無を言わせない声だった
リーダーの声
でも怒っているわけじゃない
「今は休め」
「それが仕事」
奏くんが呆然と陽貴くんを見る
そしてほんの少しだけ
本当に少しだけ
口元が緩んだ
「……なんすかそれ」
「命令」
「横暴っす」
「知ってる」
そんなやり取りに
私は思わず笑ってしまった
久しぶりだった
黒騎士らしい空気が戻った気がした
たとえ少しだけでも
たとえ一瞬でも
今の奏くんに必要なのは
きっとこういう時間なのかもしれなかった


