トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

サンドイッチを食べ終えた頃には、時計の針は21時を回ろうとしていた。

長い一日だった。

いや。

まだ終わっていないのかもしれない。

でも少なくとも今日はもう動きようがない。

俺はソファへ背中を預けながら小さく息を吐く。

すると優朔が静かに口を開いた。

「……明日からどうする?」

誰もすぐには答えなかった。

それぞれが同じことを考えていたのだと思う。

俺は少しだけ考えてから言う。

「多分、記者会見とかそういう流れになってくると思う」

「会社も動いてるだろうし」

「まずはそこに備えるしかないかな」

蒼依がゆっくり頷いた。

「っすね……」

「正直、今は何しても火に油な気がする」

「うん」

俺も同意だった。

下手に動けば余計に状況が悪化する。

だから今は会社の判断を待つしかない。

「今日は一旦解散しよう」

俺は二人を見る。

「また明日集まろう」

優朔も。

蒼依も。

静かに頷いた。

異論はない。

するとその時だった。

「奏くんは私に任せてください」

紗凪がそう言った。

優しい声だった。

でもその中にはしっかりとした意志がある。

優朔が顔を上げる。

そして少し申し訳なさそうに笑った。

「……一ノ瀬さん」

「?」

「巻き込んでしまってごめんね」

その言葉に蒼依も俯く。

二人とも本気でそう思っているのだろう。

本来ならこれは黒騎士の問題だ。

紗凪には関係ない。

なのに今日一日ずっと支えてくれている。

奏の看病も。

俺たちのことも。

全部。

でも紗凪は首を横に振った。

「巻き込まれたなんて思ってませんよ」

迷いのない声。

優朔が少し目を見開く。

紗凪は続けた。

「私はただ」

「自分が本当にみんなの力になりたいと思ったから」

静かな言葉だった。

なのに。

胸に響く。

「陽貴くんの大切な仲間ですし」

「私にできることがあるならしたい」

「それだけです」

優朔も。

蒼依も。

言葉を失ったようだった。

しばらく誰も話さない。

すると蒼依がぽつりと呟く。

「……かっけぇ」

本音だった。

優朔も小さく笑う。

「ほんとに」

その表情は少しだけ柔らかかった。

今日初めてかもしれない。

二人が少しだけ笑ったのは。

俺はそんな光景を見ながら思う。

本当に。

本当に。

紗凪はすごい。

誰かを支えることを当たり前みたいにできる。

見返りなんて求めずに。

だからみんな自然と救われる。

優朔が立ち上がる。

「じゃあ今日は帰るね」

蒼依も続く。

「また明日来るっす」

「うん」

俺は頷いた。

玄関まで見送る。

二人とも疲れ切った顔をしていた。

でも来た時よりは少しだけ表情が落ち着いている。

「奏頼む」

帰り際。

優朔がそう言った。

その言葉に俺は力強く頷く。

「あぁ」

「絶対一人にしない」

優朔も頷く。

そして二人はマンションを後にした。

玄関のドアが閉まる。

部屋に静寂が戻る。

残ったのは。

俺と紗凪。

そして寝室で眠る奏。

明日どうなるのか分からない。

黒騎士はどうなるのか。

記事はどこまで広がるのか。

何も見えない。

それでも。

今夜だけは。

奏を守ることだけ考えよう。

俺は寝室の方へ視線を向けた。

どうか。

少しでも楽になっていますように。

そう願いながら、静かに息を吐いた。