『黒騎士・桜庭奏 不同意性交疑惑』
その文字がスマホ画面いっぱいに表示されていた
一瞬だった
本当に一瞬
たった数分で
ネットは地獄になる
SNS
ニュースサイト
掲示板
動画サイト
全部
全部
黒騎士の名前で埋め尽くされていく
《最低》
《もう終わりだろ》
《やっぱり芸能人なんてこんなもん》
《黒騎士解散しろ》
《ファン辞めます》
《気持ち悪い》
《全員信用できない》
次々と流れていく言葉
誰も事実なんて知らない
何も知らないくせに
まるで見てきたかのように断罪する
俺は奥歯を噛み締めた
怒りで震える
でも今は怒ってる場合じゃない
「奏は見るな」
そう言おうとしたが遅かった
奏はすでにスマホを開いていた
画面を見つめたまま動かない
瞬きもしない
呼吸も浅い
顔色がみるみる白くなっていく
「奏?」
蒼依が声を掛ける
反応がない
「おい、奏」
優朔も立ち上がる
それでも動かない
奏の瞳はただ画面だけを見ていた
《気持ち悪い》
《犯罪者》
《最低》
《引退しろ》
《死ね》
俺の位置からでも見えた
酷い言葉だった
見ているだけで吐き気がする
「奏!」
俺が声を上げた瞬間だった
「っ……」
奏の肩が大きく震える
スマホが手から落ちる
カタン
乾いた音
「はっ……」
浅い呼吸
「っ……はっ……」
まずい
俺は立ち上がる
でも
それより早く
一人の影が動いていた
「奏くん」
紗凪の静かな声
慌てていない
奏の前へしゃがみ込む
「奏くん」
もう一度呼ぶ
「……っ……」
奏は呼吸ができていない
胸だけが激しく上下する
「大丈夫」
紗凪が言う
「私の声聞いて」
救命の現場で何度も患者へ掛けてきた声
優しくて不思議と安心する声だった
「スマホ見なくていい」
紗凪はそっとスマホを裏返す
画面を見えなくする
「奏くん」
奏の視線が少しだけ動いた
「私を見て」
震える瞳
涙で滲んでいる
「大丈夫」
紗凪は落ち着いた声で続ける
「ゆっくり息吸って」
「吸って」
自分も一緒に吸う
「吐いて」
ゆっくり
長く
「大丈夫」
「吸って」
「吐いて」
繰り返す
何度も何度も


