私は小さく笑って、自分の背中に回されている陽貴くんの大きな手に、そっと指先を重ねた
「大丈夫だよ、ちゃんと分かってるから」
すると、後ろからフゥと小さく呆れたようなため息が漏れてきた
「その“大丈夫”が、この世で一番信用できないんだって。ねえ分かってる?」
「……」
「だって紗凪、前科がありすぎるもん」
「……それは、否定できないかも」
「でしょ?」
私が降参すると、陽貴くんは満足そうにフッと鼻で笑った
それから、愛おしさを堪えきれなくなったように、私の肩口へそっと額を預けてくる
「……でもさ」
「ん?」
「こうやって毎朝、当たり前みたいに“いってらっしゃい”ができるの、本当に幸せ」
耳元で囁かれたその声が、あまりにも優しくて、切ないくらいに暖かかった
昔の私だったら、こんな風に誰かと暮らす朝なんて、想像すらしていなかった
頭の中はいつだって、恋愛よりも仕事が最優先
それ以外の生き方なんて、自分には無縁だと決めつけていたから
でも、隣にこの人がいる今は違う
制服に身を包んで過酷な救命現場を走る自分も。こうして彼の腕の中で無防備に笑っている自分も
綺麗事抜きで、どちらも嘘偽りのない“私”なんだと素直に思える
そっと寝返りを打って振り返る
視線の先、一瞬で彼と目が合った
寝起き特有の、少し無造作に乱れた黒髪。熱を帯びたように、甘く細められた双眸
吐息が触れ合うほどの、近すぎる距離
本当に、この人は朝一番から私の心臓に悪すぎる
「……陽貴くん」
「ん?」
「からかってないで、そろそろ本当に離して」
そう抗議する私を、陽貴くんは楽しむような瞳で見つめてくる。
ほんの数秒、部屋に濃密な沈黙が流れた
それから、彼は悪戯っぽく唇の端を上げた。
「……紗凪がキスしてくれたら、大人しく離してあげる」
「子供みたいなこと言わないで」
「じゃあ、このまま絶対に離さない」
「なんでそう極端になるの!?」
「ほら……早くして?」
そう言って、彼は当然の権利を主張するように、ゆっくりと瞼を閉じる
もう、本当に敵わない
半分自暴自棄になりながら、私は小さく息を吸い込んだ
「……ちゅっ」
ほんの一瞬、触れただけの拙いキス
どれだけ時間を重ねても自分から触れるのは慣れなくて、胸の奥がうるさいくらいに変な音を立てている
「大丈夫だよ、ちゃんと分かってるから」
すると、後ろからフゥと小さく呆れたようなため息が漏れてきた
「その“大丈夫”が、この世で一番信用できないんだって。ねえ分かってる?」
「……」
「だって紗凪、前科がありすぎるもん」
「……それは、否定できないかも」
「でしょ?」
私が降参すると、陽貴くんは満足そうにフッと鼻で笑った
それから、愛おしさを堪えきれなくなったように、私の肩口へそっと額を預けてくる
「……でもさ」
「ん?」
「こうやって毎朝、当たり前みたいに“いってらっしゃい”ができるの、本当に幸せ」
耳元で囁かれたその声が、あまりにも優しくて、切ないくらいに暖かかった
昔の私だったら、こんな風に誰かと暮らす朝なんて、想像すらしていなかった
頭の中はいつだって、恋愛よりも仕事が最優先
それ以外の生き方なんて、自分には無縁だと決めつけていたから
でも、隣にこの人がいる今は違う
制服に身を包んで過酷な救命現場を走る自分も。こうして彼の腕の中で無防備に笑っている自分も
綺麗事抜きで、どちらも嘘偽りのない“私”なんだと素直に思える
そっと寝返りを打って振り返る
視線の先、一瞬で彼と目が合った
寝起き特有の、少し無造作に乱れた黒髪。熱を帯びたように、甘く細められた双眸
吐息が触れ合うほどの、近すぎる距離
本当に、この人は朝一番から私の心臓に悪すぎる
「……陽貴くん」
「ん?」
「からかってないで、そろそろ本当に離して」
そう抗議する私を、陽貴くんは楽しむような瞳で見つめてくる。
ほんの数秒、部屋に濃密な沈黙が流れた
それから、彼は悪戯っぽく唇の端を上げた。
「……紗凪がキスしてくれたら、大人しく離してあげる」
「子供みたいなこと言わないで」
「じゃあ、このまま絶対に離さない」
「なんでそう極端になるの!?」
「ほら……早くして?」
そう言って、彼は当然の権利を主張するように、ゆっくりと瞼を閉じる
もう、本当に敵わない
半分自暴自棄になりながら、私は小さく息を吸い込んだ
「……ちゅっ」
ほんの一瞬、触れただけの拙いキス
どれだけ時間を重ねても自分から触れるのは慣れなくて、胸の奥がうるさいくらいに変な音を立てている


