俺は俯いたまま、拳を握る
指先に力が入る
それでも、不安は全然消えなかった
「……奏の記事が出る」
掠れた声でそう言う
紗凪が少しだけ目を瞬く
「記事?」
数秒、迷った
でもここで誤魔化したくなかった
「……不同意性交疑惑だって…」
言葉にした瞬間
部屋の空気が、すっと冷える
静寂
時計の秒針の音がやけに大きく聞こえた
紗凪が小さく息を呑む気配
当然だ
そんな言葉、簡単に受け止められるものじゃない
世間なら、きっともっと簡単に騒ぐ
SNSも
ニュースも
週刊誌も
一瞬で“黒騎士”を飲み込む
俺は奥歯を噛み締める
「……ホテル行った事実はある」
「写真も撮られてる」
「だから記事自体は止められなかった」
声を出すたびに、自分の中の焦燥感まで広がっていく
明日の朝には出る
世間へ
全部
俺は拳を強く握り締めた
「……黒騎士、終わるかもしれない」
ぽつりと漏れた本音
その瞬間だった
「……陽貴くんは」
紗凪が静かに口を開く
「奏くんがそんなことするって思ってるの?」
まっすぐな声だった
俺は即座に首を横に振る
迷いなんて、一瞬もなかった
「思ってない」
「絶対違う」
その言葉だけは、何があっても揺るがない
奏は確かに危なっかしい
女の扱いだって軽い
でも人を傷つけるような奴じゃない
少なくとも、俺は知ってる
ステージ裏で泣いてるスタッフに真っ先に気づくのも
メンバーの空気が悪くなった時に、わざとふざけて笑わせるのも
誰より人の感情に敏感なのは、あいつだ
だから
絶対に違う
紗凪は静かに頷いた
「……そっか」
たったそれだけ
でも
“まず疑う”じゃなくて
“陽貴くんが信じてるなら、私も信じる”みたいな返事だった
その優しさに、胸が痛くなる
俺は深く息を吐いた
すると紗凪がそっと俺の肩へ頭を預けてきた
柔らかい重み
微かに香るシャンプーの匂い
張り詰めていた神経が、少しだけほどける
「陽貴くん」
「……ん?」
「言ってくれてありがとう」
静かな声だった
でもその声は、驚くくらい真っ直ぐ胸に落ちてくる
「一人で背負わなくていいから」
その瞬間胸の奥で、何かが音を立てて崩れた気がした
リーダーだから
守らなきゃいけないから
俺が冷静でいなきゃいけないから
ずっとそう思ってた
実際、今日も必死だった
奏を落ち着かせて
蒼依たちをまとめて
黒瀬さんと話して
頭の中がパンクしそうでも、“佐野陽貴”でいなきゃいけなかった
でも紗凪の前でだけは
その全部を、少しだけ下ろしてもいい気がした
俺はゆっくり手を伸ばす
そして
紗凪を抱き寄せた
ぎゅっと
離したくないみたいに
「……怖い」
気づけば、そんな言葉が零れていた
紗凪が小さく息を飲む
俺は額を紗凪の肩へ押し付けたまま続ける
「黒騎士なくなるのも」
「奏が壊れるのも」
「全部、怖い」
こんな弱音
誰にも吐けなかった
でも
紗凪は何も言わず、そっと俺の背中を撫でてくれる
その手が優しすぎて余計に泣きそうになる
「……大丈夫」
紗凪が静かに言う
「陽貴くんたちが積み重ねてきたものって、そんな簡単になくならないよ」
その声は、不思議なくらい落ち着いていた
救命の現場でたくさんの修羅場を見てきた人間の声
感情論だけじゃない
ちゃんと、人を支える強さがある
「それに」
紗凪が少しだけ顔を上げる
近い距離で、真っ直ぐ俺を見る
「陽貴くんは、一人じゃないでしょ?」
その言葉に胸が熱くなる
黒騎士のメンバー
黒瀬さん
そして
紗凪
守りたい人がいる
でも同時に
俺を支えようとしてくれる人も、ちゃんといる
その事実に張り詰めていた心が、少しだけ救われた気がした
指先に力が入る
それでも、不安は全然消えなかった
「……奏の記事が出る」
掠れた声でそう言う
紗凪が少しだけ目を瞬く
「記事?」
数秒、迷った
でもここで誤魔化したくなかった
「……不同意性交疑惑だって…」
言葉にした瞬間
部屋の空気が、すっと冷える
静寂
時計の秒針の音がやけに大きく聞こえた
紗凪が小さく息を呑む気配
当然だ
そんな言葉、簡単に受け止められるものじゃない
世間なら、きっともっと簡単に騒ぐ
SNSも
ニュースも
週刊誌も
一瞬で“黒騎士”を飲み込む
俺は奥歯を噛み締める
「……ホテル行った事実はある」
「写真も撮られてる」
「だから記事自体は止められなかった」
声を出すたびに、自分の中の焦燥感まで広がっていく
明日の朝には出る
世間へ
全部
俺は拳を強く握り締めた
「……黒騎士、終わるかもしれない」
ぽつりと漏れた本音
その瞬間だった
「……陽貴くんは」
紗凪が静かに口を開く
「奏くんがそんなことするって思ってるの?」
まっすぐな声だった
俺は即座に首を横に振る
迷いなんて、一瞬もなかった
「思ってない」
「絶対違う」
その言葉だけは、何があっても揺るがない
奏は確かに危なっかしい
女の扱いだって軽い
でも人を傷つけるような奴じゃない
少なくとも、俺は知ってる
ステージ裏で泣いてるスタッフに真っ先に気づくのも
メンバーの空気が悪くなった時に、わざとふざけて笑わせるのも
誰より人の感情に敏感なのは、あいつだ
だから
絶対に違う
紗凪は静かに頷いた
「……そっか」
たったそれだけ
でも
“まず疑う”じゃなくて
“陽貴くんが信じてるなら、私も信じる”みたいな返事だった
その優しさに、胸が痛くなる
俺は深く息を吐いた
すると紗凪がそっと俺の肩へ頭を預けてきた
柔らかい重み
微かに香るシャンプーの匂い
張り詰めていた神経が、少しだけほどける
「陽貴くん」
「……ん?」
「言ってくれてありがとう」
静かな声だった
でもその声は、驚くくらい真っ直ぐ胸に落ちてくる
「一人で背負わなくていいから」
その瞬間胸の奥で、何かが音を立てて崩れた気がした
リーダーだから
守らなきゃいけないから
俺が冷静でいなきゃいけないから
ずっとそう思ってた
実際、今日も必死だった
奏を落ち着かせて
蒼依たちをまとめて
黒瀬さんと話して
頭の中がパンクしそうでも、“佐野陽貴”でいなきゃいけなかった
でも紗凪の前でだけは
その全部を、少しだけ下ろしてもいい気がした
俺はゆっくり手を伸ばす
そして
紗凪を抱き寄せた
ぎゅっと
離したくないみたいに
「……怖い」
気づけば、そんな言葉が零れていた
紗凪が小さく息を飲む
俺は額を紗凪の肩へ押し付けたまま続ける
「黒騎士なくなるのも」
「奏が壊れるのも」
「全部、怖い」
こんな弱音
誰にも吐けなかった
でも
紗凪は何も言わず、そっと俺の背中を撫でてくれる
その手が優しすぎて余計に泣きそうになる
「……大丈夫」
紗凪が静かに言う
「陽貴くんたちが積み重ねてきたものって、そんな簡単になくならないよ」
その声は、不思議なくらい落ち着いていた
救命の現場でたくさんの修羅場を見てきた人間の声
感情論だけじゃない
ちゃんと、人を支える強さがある
「それに」
紗凪が少しだけ顔を上げる
近い距離で、真っ直ぐ俺を見る
「陽貴くんは、一人じゃないでしょ?」
その言葉に胸が熱くなる
黒騎士のメンバー
黒瀬さん
そして
紗凪
守りたい人がいる
でも同時に
俺を支えようとしてくれる人も、ちゃんといる
その事実に張り詰めていた心が、少しだけ救われた気がした


