俺は足音を消したまま、そっとソファの傍らへと膝をついた
耳に届く、優しく規則正しい寝息
白い肌に淡い影を落とす、長い睫毛
よく見れば、その綺麗な目元には、今日一日を死に物狂いで戦い抜いてきた、隠しきれない色濃い疲労が滲んでいる
それでもひどく無防備で、酷なほどに美しいと心から思った
本当に、何度その寝顔を見つめても、俺の心は初めて彼女に恋をしたときと同じように激しく揺さぶられてしまう
「……お疲れさま、紗凪」
誰もいない静寂の中に、溶かすように小さく言葉を溢した
当然、愛おしい恋人からの返事はない
けれどその瞬間、彼女の形の良い眉が、かすかにピクリと動いた
何か苦しい夢でも見ているのだろうか、胸元にぎゅっと抱きしめていたクッションを、さらに守るように愛らしく力を込める
「……はるき、くん……」
吐息のように溢れ出たのは、微かな寝言
そのあまりの内容に、俺の口元からは思わず堪えきれない笑みが漏れてしまった
夢のなかでまで、俺の名前を呼んでるのかよ
反則なくらいに、可愛すぎるだろ
身体の芯にずっしりとたまっていたはずの重い疲労が、たったその一言を聴いただけで、嘘みたいに綺麗さっぱりと吹き飛んでいくのが分かった
俺は愛おしさを抑えきれず、そっと彼女の柔らかな頬へと指先を伸ばした
手のひらに伝わる、じんわりとした温かい体温
そうだ、あの命の最前線から彼女はちゃんとここに、俺の元へと生きて帰ってきてくれた
ただそれだけの事実が、今の俺には何よりも尊く、十分すぎるほどの救いだった
昼間、スタジオのモニターでニュース映像を目にするたび、脳裏にはあの大阪での血の気が引くような凄惨な事故の記憶がフラッシュバックして、生きた心地がしなかった
最悪の結末ばかりが頭を過り、呼吸の仕方を忘れそうになるほど胸が苦しかった
だけど、今はもう、そんな実体のない幻影に怯える必要はない
彼女は目の前にいる
手を伸ばせば、その確かなぬくもりに触れられる距離にいてくれる
張り詰めていた心が、ようやく本当の意味で凪いでいくのを感じた
「……本当によく頑張ったな」
慈しむように、少し乱れた黒髪を優しく指先で梳く
すると、紗凪は心地よさそうに少しだけ身じろぎをして、眠ったまま、俺の手のひらに自分の温かい頬をそっと擦り寄せてきた
まるで、甘える動物のように無防備なその仕草で
……本当に、どこまで俺を翻弄すれば気が済むんだ
俺は自嘲気味に小さく苦笑し、彼女の小さな身体を、壊れ物を扱うようにそっと両腕で抱き上げた
耳に届く、優しく規則正しい寝息
白い肌に淡い影を落とす、長い睫毛
よく見れば、その綺麗な目元には、今日一日を死に物狂いで戦い抜いてきた、隠しきれない色濃い疲労が滲んでいる
それでもひどく無防備で、酷なほどに美しいと心から思った
本当に、何度その寝顔を見つめても、俺の心は初めて彼女に恋をしたときと同じように激しく揺さぶられてしまう
「……お疲れさま、紗凪」
誰もいない静寂の中に、溶かすように小さく言葉を溢した
当然、愛おしい恋人からの返事はない
けれどその瞬間、彼女の形の良い眉が、かすかにピクリと動いた
何か苦しい夢でも見ているのだろうか、胸元にぎゅっと抱きしめていたクッションを、さらに守るように愛らしく力を込める
「……はるき、くん……」
吐息のように溢れ出たのは、微かな寝言
そのあまりの内容に、俺の口元からは思わず堪えきれない笑みが漏れてしまった
夢のなかでまで、俺の名前を呼んでるのかよ
反則なくらいに、可愛すぎるだろ
身体の芯にずっしりとたまっていたはずの重い疲労が、たったその一言を聴いただけで、嘘みたいに綺麗さっぱりと吹き飛んでいくのが分かった
俺は愛おしさを抑えきれず、そっと彼女の柔らかな頬へと指先を伸ばした
手のひらに伝わる、じんわりとした温かい体温
そうだ、あの命の最前線から彼女はちゃんとここに、俺の元へと生きて帰ってきてくれた
ただそれだけの事実が、今の俺には何よりも尊く、十分すぎるほどの救いだった
昼間、スタジオのモニターでニュース映像を目にするたび、脳裏にはあの大阪での血の気が引くような凄惨な事故の記憶がフラッシュバックして、生きた心地がしなかった
最悪の結末ばかりが頭を過り、呼吸の仕方を忘れそうになるほど胸が苦しかった
だけど、今はもう、そんな実体のない幻影に怯える必要はない
彼女は目の前にいる
手を伸ばせば、その確かなぬくもりに触れられる距離にいてくれる
張り詰めていた心が、ようやく本当の意味で凪いでいくのを感じた
「……本当によく頑張ったな」
慈しむように、少し乱れた黒髪を優しく指先で梳く
すると、紗凪は心地よさそうに少しだけ身じろぎをして、眠ったまま、俺の手のひらに自分の温かい頬をそっと擦り寄せてきた
まるで、甘える動物のように無防備なその仕草で
……本当に、どこまで俺を翻弄すれば気が済むんだ
俺は自嘲気味に小さく苦笑し、彼女の小さな身体を、壊れ物を扱うようにそっと両腕で抱き上げた


