22時を少し過ぎた頃だった
ようやく、今日の過酷なスケジュールがすべて終わりを告げた
朝一番からのドラマ撮影
カメラの前に立っている間も、あの昼休みに目にしたニュース映像が頭から離れず、途中で何度もスマホを開いてしまいそうになるのを必死に堪えていた
気がつけば、一日中一歩も足を止めることなく動きっぱなしの一日だった
送迎の車を降り、静まり返ったマンションのロビーへと足を踏み入れる
上昇するエレベーターの密室の中で、ようやく胸の奥に溜まっていた熱い息を深く、大きく吐き出した
身体は鉛のように重く、肩の筋肉もガチガチに強張っている
けれど、そんな肉体的な疲労以上に、俺の頭の中はたった一つのことだけで占められていた
紗凪は、もう家に帰っているだろうか
怪我もなく、本当に、無事だろうか
あの昼の衝撃的なニュース以降、お互いの激務が重なってまともに連絡すら取れていない
命を預かる彼女の仕事が忙しいことなんて、今さら言われるまでもなく百も承知だ
分かっている。頭では、ちゃんと分かっているけれど
今日という日だけは、いつも以上に彼女の生存を確かめるように、その顔が狂おしいほどに見たかった
チーン、と軽い電子音とともにエレベーターの扉が開く
すっかり歩き慣れた内廊下を進み、見慣れた我が家の玄関の前へ
同棲を始めてから、すっかり二人の帰る場所になったこの愛おしい空間
祈るような気持ちで鍵を差し込み、静かに解錠した
「ただいま……」
習慣というのは恐ろしいもので、誰もいないかもしれない空間に向けて反射的に声を掛けていた
だけど、期待していた返事は返ってこない
いつもなら、俺の足音に気づいて「おかえり!」って、あの世界で一番大好きな柔らかい笑顔を浮かべながら走って出てくるのに
静寂が返ってきた空間に、胸の奥が少しだけ不安でざわつく
慌てて視線を落とし靴箱の脇へと目を向けた
そこには、見慣れた紗凪の仕事用のパンプスがちょこんと並んでいた
帰ってきてる
その確かな足跡を確認しただけで、張り詰めていた肩の力が一気に抜け、心底ホッとした
俺は極力足音を立てないよう、静かな足取りでリビングへの扉を押し開けた
そして、一歩足を踏み入れた瞬間、思わずその場に足を止めた
視線の先、リビングの中央にある見慣れたソファの上
そこには、まるで体温を守るように小さく身体を丸め、クッションをぎゅっと胸に抱きしめながら、すやすやと健やかな寝息を立てて眠り込んでいる彼女の姿があった
お風呂には先に済ませてくれたようで、お気に入りのパジャマ姿のまま眠っている
いつも綺麗にまとめられている黒髪は、今は無防備に少しだけ乱れて頬に張り付いていた
ローテーブルの上には、半分ほど飲みかけのまま置かれた水の入ったグラス
その健気な光景を見ただけで、すべてを察した
きっと、夜遅くに帰ってくる俺の帰りを、健気にずっと待っていてくれたのだろう
映画の続きでも見ながら待っているうちに、限界を迎えてそのまま眠りに落ちてしまったに違いない
ようやく、今日の過酷なスケジュールがすべて終わりを告げた
朝一番からのドラマ撮影
カメラの前に立っている間も、あの昼休みに目にしたニュース映像が頭から離れず、途中で何度もスマホを開いてしまいそうになるのを必死に堪えていた
気がつけば、一日中一歩も足を止めることなく動きっぱなしの一日だった
送迎の車を降り、静まり返ったマンションのロビーへと足を踏み入れる
上昇するエレベーターの密室の中で、ようやく胸の奥に溜まっていた熱い息を深く、大きく吐き出した
身体は鉛のように重く、肩の筋肉もガチガチに強張っている
けれど、そんな肉体的な疲労以上に、俺の頭の中はたった一つのことだけで占められていた
紗凪は、もう家に帰っているだろうか
怪我もなく、本当に、無事だろうか
あの昼の衝撃的なニュース以降、お互いの激務が重なってまともに連絡すら取れていない
命を預かる彼女の仕事が忙しいことなんて、今さら言われるまでもなく百も承知だ
分かっている。頭では、ちゃんと分かっているけれど
今日という日だけは、いつも以上に彼女の生存を確かめるように、その顔が狂おしいほどに見たかった
チーン、と軽い電子音とともにエレベーターの扉が開く
すっかり歩き慣れた内廊下を進み、見慣れた我が家の玄関の前へ
同棲を始めてから、すっかり二人の帰る場所になったこの愛おしい空間
祈るような気持ちで鍵を差し込み、静かに解錠した
「ただいま……」
習慣というのは恐ろしいもので、誰もいないかもしれない空間に向けて反射的に声を掛けていた
だけど、期待していた返事は返ってこない
いつもなら、俺の足音に気づいて「おかえり!」って、あの世界で一番大好きな柔らかい笑顔を浮かべながら走って出てくるのに
静寂が返ってきた空間に、胸の奥が少しだけ不安でざわつく
慌てて視線を落とし靴箱の脇へと目を向けた
そこには、見慣れた紗凪の仕事用のパンプスがちょこんと並んでいた
帰ってきてる
その確かな足跡を確認しただけで、張り詰めていた肩の力が一気に抜け、心底ホッとした
俺は極力足音を立てないよう、静かな足取りでリビングへの扉を押し開けた
そして、一歩足を踏み入れた瞬間、思わずその場に足を止めた
視線の先、リビングの中央にある見慣れたソファの上
そこには、まるで体温を守るように小さく身体を丸め、クッションをぎゅっと胸に抱きしめながら、すやすやと健やかな寝息を立てて眠り込んでいる彼女の姿があった
お風呂には先に済ませてくれたようで、お気に入りのパジャマ姿のまま眠っている
いつも綺麗にまとめられている黒髪は、今は無防備に少しだけ乱れて頬に張り付いていた
ローテーブルの上には、半分ほど飲みかけのまま置かれた水の入ったグラス
その健気な光景を見ただけで、すべてを察した
きっと、夜遅くに帰ってくる俺の帰りを、健気にずっと待っていてくれたのだろう
映画の続きでも見ながら待っているうちに、限界を迎えてそのまま眠りに落ちてしまったに違いない


