トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

「陽貴さん、後半の準備お願いします!」

スタッフの鋭い声が響き、ハッと現実に引き戻された

「今行きます」

衣装の袖の中で無意識に力が入っていた拳をゆっくりと開き、台本を片手に立ち上がる

胸の奥を冷たく支配する焦燥感を誰にも悟られないよう、俺は一瞬でいつもの完璧な「トップアイドル・陽貴」の顔を張り付けた

スタジオの照明は、眩しいほどに白く輝いている

カメラの前に立ち、監督のサインが出た瞬間、俺は完璧な笑顔を作って華やかにセリフを口にした

だけど、脳裏の片隅からは、あのニュース映像の残像がどうしても消えてくれなかった

フライトスーツをまとい、一刻を争う過酷な現場を恐れずに駆けていた紗凪

自分の身の安全なんて二の次だと言わんばかりに、目の前の命だけを見つめていたあの真剣な瞳

……本当に、かっこいいよ

きらびやかな世界で無数の拍手を浴びている自分と、命の最前線で戦っている彼女

俺と彼女では、何もかもが違いすぎる

それでも、そんな彼女を恋人に持てたことを、俺は心から誇りに思っている

でも、それと同じくらい、彼女を失うかもしれないという恐怖がどうしても消えない

もし、あのヘリが何かの拍子に事故に巻き込まれたら

大動脈解離の極限のプレッシャーの中、あるいは現場で二次災害が起きて、彼女が倒れてしまったら

最悪の想像が、容赦なく胸を突き刺す

「はい、カット! 陽貴さん、今の表情すごく良かったです。切なさがリアルに出てました!」

監督の絶賛する声が響く。

芝居じゃない、本気で怖くて胸が潰れそうだっただけだ

…なんて、言えるはずもなく

「ありがとうございます」

短く頭を下げ、セットの裏へと下がる

すぐに衣装のポケットからスマホを取り出し、画面を確認した

当然、連絡はいっさい入っていない

今もまだ、高度救命センターの処置室で、一分一秒を争うオペのサポートに必死に戦っている時間だろう

俺にできるのは、ただ待つことだけだ

彼女が自分の足で、無事に俺の元へ帰ってくるのを信じることだけ

「紗凪……」

画面に残る彼女の名前を見つめながら、ぽつりと呟く

無茶だけはするなよ。お前を待ってる人間が、ここにもいるんだからな

心の中でそう繰り返しながら、俺は次の仕事へ向かうために、もう一度強くスマホを握りしめた