トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

ドームの天井を突き抜ける歓声が届かないほど遠い場所——

夜の帳が降り始めた山間部

赤く染まりかけた空を切り裂くように、一機のドクターヘリが轟音を響かせながら飛行していた

機内にいるのは、フライトナースの紗凪

登山道付近で発生した転落事故

崖下へ滑落した男性が重傷を負い、救助隊によってようやく引き上げられたところだった

「血圧70台です!」

「意識レベル低下!」

「気道保持急いで!」

狭い機内に緊張が走る

搬送中も患者の状態は悪化し続けていた

紗凪はモニターへ視線を向けながら素早く薬剤を準備する

ヘルメットの下の額には汗が滲んでいた

だがその表情に迷いはない

今この瞬間も患者の命は秒単位で失われようとしている

紗凪の視界にあるのは福岡ドームでも、恋人でも、ニュースでもない

ただ一つ

目の前で必死に生きようとしている命だけだった

「ルート確保できました!」

「先生、昇圧剤いきます!」

機内に飛び交う声

ローター音

モニターアラーム

その全てが混ざり合う

恋人の前で見せる柔らかな笑顔など微塵もない

そこにいるのは命を守るために戦うフライトナースだった

⸻

同じ頃

東京中央大学病院救急救命センター

ERの初療室では梓が慌ただしく走り回っていた

「CPA一件入ります!」

「搬入まで二分!」

スタッフたちが一斉に動き出す

除細動器

薬剤

挿管準備

全てが瞬時に整えられていく

自動ドアが開く

救急隊が患者を運び込む

「70代男性! 自宅浴室で倒れているところを発見!」

「発見時心肺停止!」

その瞬間

ERの空気がさらに張り詰めた

「胸骨圧迫継続!」

「アドレナリン準備!」

梓は迷いなく患者の元へ駆け寄る

次々と飛び交う指示

止まらないアラーム

汗で張り付く髪

床へ落ちる使用済みのガーゼ

そこはまさに戦場だった

⸻

福岡ドームでは

何万人もの歓声が響いている

スポットライト

音楽

歓喜

感動

夢のような空間

だけどその頃

紗凪と梓がいる場所には

拍手も

歓声も

スポットライトもない

あるのは命の鼓動

モニター音

そして

生きようとする人間の強い意志だけ

⸻

ヘリの中で患者の手を握る紗凪

ERで心電図モニターを見つめ続ける梓

二人とも時計を見る余裕すらなかった

今頃、ライブ始まってるかな

そんなことを考える暇もない

彼女たちは知っている

自分たちを待っている人がいるように

今この瞬間自分たちを必要としている命があることを

だから

走る

戦う

救う

誰にも見えない場所で

誰にも知られない場所で

それでも彼女たちは今日も最前線に立ち続けていた

それが

フライトナース・一ノ瀬紗凪

そして救急看護師・七瀬梓が選んだ生き方なのだ