福岡ドーム周辺は、開演の数時間前から尋常ではない熱気に包まれていた
駅からの道は人波で埋め尽くされ、グッズを持つファンの列がどこまでも続いている
『黒騎士・追加公演ドームツアー最終日』
この日、エンターテインメントの歴史に新たな伝説が刻まれようとしていた
デビュー以来、破竹の勢いでチャートを駆け上がった彼らの人気は、今や一時のブームを通り越し、完全な社会現象と化している
チケットの倍率は数十倍に跳ね上がり、ドームを埋め尽くした五万五千人の観客は、まさに選ばれた幸運な者たちだった
会場の暗転とともに、鼓膜を震わせる凄まじい地鳴りのような大歓声が沸き起こる
ステージにレーザー光線が走り、爆音とともにポップアップでせり上がってきたメンバーたち
その中心で圧倒的なオーラを放つ陽貴が不敵に微笑んだ瞬間、ドーム全体の空気が一瞬で沸点に達した
完璧にシンクロするダンス、魂を揺さぶる歌声、ファンの心を一瞬で射抜く目線
彼らはステージの上で神がかった輝きを放ち、五万五千人の熱狂を力に変えて躍動していた
しかし、そんな華やかな客席の最上層に位置する「関係者席」の一角には、ぽつりと不自然な空席が存在していた
芸能関係者や著名人が並ぶそのエリアで、誰の目にも留まらないように確保された、ひっそりとした特等席
本来なら、そこにいるはずの彼らの恋人たちの姿はなかった
陽貴の恋人である紗凪
そして優朔の恋人の梓
日本中の誰もが羨むプラチナチケットを手にしながらも、彼女たちがこの熱狂の渦中に身を置くことはない
なぜなら彼女たちにも、決して離れることのできない「自分たちの最前線」があるからだ
五万五千人の歓声が響き渡るドームから遠く離れた場所で、彼女たちは今、もう一つの命がけの戦いに挑んでいた


